研究課題/領域番号 |
20H03099
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中村 公人 京都大学, 農学研究科, 教授 (30293921)
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研究分担者 |
中桐 貴生 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (80301430)
辻本 久美子 岡山大学, 環境生命科学学域, 助教 (80557702)
濱 武英 京都大学, 農学研究科, 准教授 (30512008)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 畑地灌漑 / 土壌水分動態解析 / リモートセンシング / 精密農業 / ミカン |
研究実績の概要 |
和歌山県有田市の果樹園における観測に加えて,大阪府立大学の敷地内のミカン樹における画像観測を実施した.有田市果樹園においては,土壌水分量,葉面温度,気象要素の経時観測に加えて,定期的なドローン撮影(熱赤外線カメラ,マルチスペクトルカメラ)と葉の水ポテンシャル,気孔コンダクタンスの計測を行った.大阪府立大学のミカン樹においては,定期的におよそ2時間間隔での葉の水ポテンシャルを観測し,そのときのRGB撮影と近赤外マルチスペクトル撮影を行い,色彩情報との関係性を検討するとともに,葉先の位置の変位を計測し,変位量との関係性の有無を調べた.その結果,葉面温度と気温の差が葉の水ポテンシャルの推定に利用できる可能性を示すことができ,葉面温度から気孔コンダクタンスを推定するモデル式を提示した.気孔コンダクタンスの観測値と計算値はおよそ適合することを示した.また,ミカン果実品質への影響度が高い9月において,RGBと葉の水ポテンシャルの相関が高いこと,葉の水ポテンシャルは葉の変位量とも関係性が見られることを明らかにした.以上より,遠隔情報を用いて葉の水ポテンシャルが推定可能であることが示唆された.水分動態解析に必要となる蒸発散量については,土壌水分量の観測値から推定し,これが葉面温度の変化の特徴と弱い関係があることを示した. また,昨年度に開発した,ラズベリーパイと無線LANを利用したマルチスペクトル撮影および土壌水分の多点計測を自動で行えるシステムを有田市果樹園に導入し観測を開始することができた.さらに,浸潤計を用いて土壌の浸透特性を評価することができることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度はミカン樹の経時観測と定期的な観測を継続することができ,データが蓄積された.また,葉の水ポテンシャルの推定が遠隔情報から可能であることが示された.これの高精度化と灌水計画への展開が主な残された課題である.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに確立した観測体制を継続させるとともに,利用可能な遠隔指標の精度向上と灌水情報を提供できる土壌・植物・大気系の水移動モデルの確立を目指す.最終的には,園地の管理者への技術提供を行う. 葉の遠隔情報の広域観測と葉の水ポテンシャルデータの取得では,園地内の固定位置にマルチスペクトルカメラと表面温度カメラを複数台設置し,経時的なインターバル撮影を行う.また,別途定期的に無人航空機にマルチスペクトルカメラと表面温度カメラを搭載して航行させ撮影を行う.灌水情報が必要となる6~11月にかけて定期的に複数地点の葉の水ポテンシャルを測定する.葉の遠隔指標を用いた葉の水ポテンシャルの推定精度の向上のために,RGBや葉面温度,葉の形状変化情報といった葉の遠隔観測情報と葉の水ポテンシャルの測定値をさらに蓄積し,解析を行う. 土壌,植物,大気に関わる因子の固定点経時観測では,継続して固定地点での土壌情報(深度別土壌水分量,土壌の水ポテンシャル,地温),植物体生理情報(葉の水ポテンシャル,NDVI,葉温,品質,気象情報(気温,湿度,日射量,風速)を経時観測する.そして,これらのデータを適宜組み込んだ土壌・植物・大気系の水分移動解析モデルの構築する.ここでは,植物による吸水過程を考慮した土壌水分移動解析モデルを作り上げるとともに,葉の水ポテンシャルと大気の水ポテンシャルを考慮した水移動を組み込む.とくに,葉面温度が葉の水ポテンシャルの違いを反映していることが明らかになったことから,葉面温度を陽的に含むモデルを作成する. さらに,土壌水分特性の不均質性の考慮するために,空間的に計算される土壌水分量の妥当性をデータ同化の手法を用いて検討し,最終的には,広域の遠隔指標から必要灌水量を示すことができる計算手法を構築し,管理者に提示する.
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