研究課題/領域番号 |
20H03123
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
喜久里 基 東北大学, 農学研究科, 准教授 (90613042)
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研究分担者 |
村井 篤嗣 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (10313975)
橘 哲也 愛媛大学, 農学研究科, 准教授 (80346832)
米山 裕 東北大学, 農学研究科, 教授 (10220774)
小島 創一 東北大学, 農学研究科, 助教 (30462683)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 暑熱ストレス / ブロイラー / 腸管 / サイトカイン / 炎症 / 摂食量 / 間脳 |
研究実績の概要 |
暑熱環境下において肉用鶏は増体量・飼料効率が低下するが、この低下は酸化ストレスや炎症、腸管バリア機能低下といった代謝破綻に因る部分と、摂食低下に因る部分に分けることができる。本研究では腸管バリア機能破綻により血中へ流入したエンドトキシンが脳の炎症および摂食中枢機能に影響をおよぼしているか否かを検証することを目的とする。研究初年度にあたる令和2年度では、ブロイラーにおける慢性暑熱感作時の摂食量および間脳における摂食中枢因子・炎症性サイトカインの遺伝子発現量の経時的変化を調べた。暑熱感作試験は飼育室内の温度を24℃から1時間に1℃ずつ、32-34℃になるまで徐々に上げていった。温度上昇開始後12時間において、ニワトリの摂食量は適温区に比べ低下し、その後の暑熱感作でも低下した状態が続いた。脳内における摂食抑制因子CCKは暑熱感作3・7日目で有意に増加すること、炎症性サイトカインIL1β・IL8の発現量は暑熱1日目において有意に減少し、このうちIL1β発現量は暑熱感作3日目以降も低く推移した。炎症時に発現が亢進する急性期タンパク質CRPは暑熱3日目に有意に増加した一方で、摂食不振をもたらすコルチコステロンの血漿中濃度は暑熱1日目のみに増加した。間脳の抗炎症サイトカインの発現量はほとんど変化しなかった一方で、炎症性サイトカインIL6の血中濃度を測定した結果、慢性暑熱によって有意に高くなることが示された。これらの結果より、慢性暑熱ニワトリにおいて、摂食不振をもたらす因子はその感作日数に応じて異なる可能性を明らかにし、また、暑熱にともなう摂食不振状態では、ニワトリの末梢と中枢の炎症具合が異なる可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度は腸管バリア機能破綻の詳細把握および血液脳関門の透過性評価試験を予備的に実施する予定であった。しかし、新型コロナウィルス感染拡大防止に向けた所属機関の研究活動制限(県外移動を含む)により、複数の透過物質を用いた腸管バリア機能評価および安定同位体比測定により血液脳関門の透過性評価の予備試験が実施できなかった。しかし、腸管バリア機能評価に関しては、蛍光デキストランの強制投与および血中移行量の測定法が確立でき、さらに血液脳関門の透過性評価についてもエバンスブルーを用いた方法を試行し、現在その投与濃度の幅を絞ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
腸管バリア機能破綻の詳細評価:腸管の透過性亢進をより正確に評価するため、分子量が少ないラクチュロース・ラクトースなどの非消化糖を透過性評価物質として利用することを検討する。一方で、哺乳動物では血中ジアミンオキシダーゼ(DAO)の濃度が腸管バリア機能と同調して変化すると考えられており、暑熱ニワトリにおける同酵素の血中活性を調べることで腸管透過性を簡易に評価することも検討する。血液脳関門の透過性評価:エバンスブルーを用いた評価法の確率に加え、研究計画の方法(13C標識グルコースで大腸菌を培養後→死菌化→ニワトリに強制給与→暑熱感作→脳内の安定同位体比を測定)を実施する。また、FITCアルブミンやフルオレセインナトリウムなどの蛍光物質を用いた評価も検討する。脳の炎症状態の詳細把握:遺伝子レベルのみならず抗体染色などを用いてタンパク質レベルで炎症状態を把握する。過去の論文で、暑熱緩和効果が認められている飼料添加物(生菌剤、植物性化合物、アミノ酸他)を給与し、暑熱ニワトリの腸管バリア機能、摂食行動、脳内状態、血中パラメータの改善を綿密に評価し、腸管バリア機能破綻にともなう摂食中枢機能の変化を明らかにする。
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