研究課題/領域番号 |
20H03126
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
米倉 真一 信州大学, 学術研究院農学系, 教授 (40443113)
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研究分担者 |
芳賀 聡 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門, 主任研究員 (90442748)
渡邉 敬文 酪農学園大学, 獣医学群, 准教授 (50598216)
徳武 優佳子 東北大学, 農学研究科, 助教 (90824657)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 小胞体ストレス応答 / 乳腺上皮細胞 / 乳牛 / 細胞死 / 小胞体拡張 |
研究実績の概要 |
乳腺上皮細胞の小胞体ストレス応答(UPR)が、カゼイン合成やアポトーシスに直接関与し、泌乳能力に大きく影響する可能性を見出していることから、泌乳能力に関わる「小胞体拡張」と「細胞死」を調節するUPRの分子経路と、乳腺上皮細胞死を誘導する過剰なUPRを引き起こす内因性因子を特定、解明することを目的として研究を推進しており、初年度は下記の点を明らかにした。 小胞体膜上にIRE1、PERK、ATF6の3つの小胞体ストレスに対するセンサー分子が活性化することで、UPRが発動する。これらUPRの経路の中において、乳腺上皮細胞の細胞死の際は、PERK-CHOP経路が関与していることを見出した。さらに飽和脂肪酸がこの経路を活性化し(強い小胞体ストレスを惹起)、アポトーシスを誘導することを明らかにした。泌乳初期の乳牛では、負のエネルギーバランスに陥り、体脂肪が動員され、血中の飽和脂肪酸濃度が上昇する。よって、泌乳牛ではエネルギー不足によって増加する血中の飽和脂肪酸が、乳腺上皮細胞の小胞体ストレスを惹起することが考えられた。続いて、乾乳牛を用いて、2日間の絶食によって負のエネルギーバランスを誘導し、エネルギー代謝において要の器官である肝臓の小胞体ストレス状態を検討した。その結果、2日間の絶食によりIRE1-XBP1経路が活性化していることを見出した。また転写因子であるXBP1が、ケトン体合成やβ酸化に関与する遺伝子発現を上昇させている可能性が示唆された。 一方、「小胞体拡張」においては、IRE1-XBP1経路が関与しており、XBP1が小胞体生合成に関与する遺伝子発現を上昇させていることを見出した。さらにIGF-1がmTORシグナルを介してIRE1-XBP1経路を活性化させ、小胞体の生合成を高めていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である令和2年度は、泌乳能力に関わる乳腺上皮細胞の「小胞体拡張」と「細胞死」を調節するUPR経路を明らかにすることが出来た。さらに、小胞体拡張および細胞死を誘導する内因性因子の一部も同定することが出来た。さらに乳牛生体内において、負のエネルギーバランスに陥ると小胞体ストレスが惹起されることも見出した。よって、乳腺上皮細胞の機能と細胞数に着目し、その細胞内機構の解明を目指す本研究の初年度計画を十分に達している。
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今後の研究の推進方策 |
細胞実験により小胞体拡張と細胞死に関わるUPRの経路を同定することが出来た。今後は、これら同定したUPR経路が、乳量と相関があるのか明らかにする。すなわち乳腺組織の各UPR分子の発現量と、乳量の上昇や減少と関連があるのか明らかにする。また同時に、細胞死については飽和脂肪酸、小胞体拡張についてはIGF-1と内因性因子の一部も同定出来ていることから、各UPR分子の発現量と乳量のみならず、血中の飽和脂肪酸やIGF-1濃度との関連性も検証する。さらに、負のエネルギーバランスと関連し、乳腺上皮細胞死を誘導する脂肪酸以外の血中因子の探索を開始する。
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