研究課題/領域番号 |
20H03127
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上野山 賀久 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (70324382)
|
研究分担者 |
平林 真澄 生理学研究所, 行動・代謝分子解析センター, 准教授 (20353435)
井上 直子 名古屋大学, 生命農学研究科, 講師 (90377789)
森田 康広 名古屋大学, アジアサテライトキャンパス学院(農), 特任准教授 (90818262)
中村 翔 岡山理科大学, 獣医学部, 助教 (50829223)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 暑熱ストレス / 繁殖成績 / ウシ / ラット |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、暑熱環境下において家畜の繁殖成績の低下を招く脳内メカニズムを解明し、地球温暖化により頻発する家畜の生産性低下を克服するための知見を集積することである。そのため、暑熱ストレス条件下におけるウシの卵巣機能を調査した。また、モデル動物であるラットを用いて繁殖機能を司る中枢ニューロンを同定した。 カンボジアの暑熱環境下において、牛舎屋内、屋外で飼育した交雑乳用牛を用いて、ホルモン剤を用いた発情同期化処置を実施し、その後の黄体退行と卵胞発育、排卵などを調査した。その結果、牛舎屋内で飼育した場合と比較して、屋外の直射日光の当たる条件で飼育した場合において、黄体退行・排卵の遅延などが生じることを見いだした。 モデル動物であるラットを用いて、家畜を含む哺乳類の視床下部弓状核に局在するキスペプチンニューロンが繁殖機能を制御する中枢のニューロンであることを明らかにした。具体的には、、弓状核特異的なキスペプチン遺伝子のノックアウトラットにおいて、卵胞発育を制御する黄体形成ホルモンのパルス状分泌が消失することを明らかにした。さらに、全身性キスペプチン遺伝子ノックアウトラットにおける弓状核特異的なキスペプチン遺伝子導入によって、黄体形成ホルモンのパルス状分泌が復活し、排卵可能なサイズにまで卵胞を発育させることに成功した。 また、モデル動物であるラットを用いて、暑熱ストレス下の食欲不振により生じる低栄養条件下において、繁殖中枢キスペプチンニューロンの機能低下が、視床下部室傍核ダイノルフィンニューロンの活性化を介して生じることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年は、暑熱環境下における家畜の繁殖機能を調査する実験系の確立、家畜を含む哺乳類の繁殖中枢ニューロンの同定、暑熱ストレス下の食欲不振により生じる低栄養条件下の繁殖抑制を仲介するニューロンの同定について以下の成果を得たことから、概ね順調に進展していると考える。 1) 暑熱環境下で飼育した家畜において、繁殖成績の低下につながる黄体退行・排卵の遅延などの指標を明らかにし、本研究で明らかとするシグナル分子の効果を実際に家畜を用いて検証する方法を確立できた。 2) モデル動物において、弓状核キスペプチンニューロンが繁殖機能を司る中枢ニューロンであることを同定した。 3) モデル動物において、視床下部室傍核ダイノルフィンニューロンが、繁殖中枢キスペプチンニューロンの機活動を抑制する上位のニューロンであることを明らかにした。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の研究により、弓状核キスペプチンニューロンが繁殖機能を司る中枢ニューロンであることを同定できた。今後、キスペプチンニューロンニューロン特異的にCre組換え酵素を発現する遺伝子組み換えラットを用いて、ウイルスベクターを用いてキスペプチンニューロン特異的に神経トレーサーを発現させる。このような最新の神経トレーシング技術により、シナプスを介してキスペプチンニューロンに発現したトレーサー分子を取り込んだ細胞を可視化し、キスペプチンニューロンに入力する熱センシング細胞を同定する予定である。
|
備考 |
家畜を含む哺乳類の視床下部弓状核に局在するキスペプチンニューロンが繁殖機能を制御する中枢のニューロンであることを遺伝子改変ラットを用いて証明し、プレスリリースを行った。その結果、日本、アメリカ、イギリス、スペインなど世界各国で20以上のメディアで取り上げられた。
|