研究課題/領域番号 |
20H03130
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松井 徹 京都大学, 農学研究科, 教授 (40181680)
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研究分担者 |
舟場 正幸 京都大学, 農学研究科, 准教授 (40238655)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 畜産学 / 栄養学 / UCP1 |
研究実績の概要 |
肥育に伴い、肥育牛の基礎代謝は亢進する。これは、エネルギー浪費が助長され、エネルギー利用効率が低下することに起因する。研究代表者らは、これまでに、肥育牛の脂肪・筋組織において、エネルギー浪費の責任遺伝子であるUCP1が発現していることを明らかにしてきた。また、肥育牛の脂肪組織で時折認められるUCP1発現の高い個体の飼料効率はとくに低いことも見出した。この結果は、UCP1発現増加を介してエネルギー消費が亢進し、飼料効率にまで影響を与える可能性を示唆しており、全身のエネルギー代謝に対するUCP1発現の意義を示している。1. 脂肪・筋組織におけるUCP1 mRNA発現量が肥育牛の生産性に影響を及ぼすか?2. ウシにおけるUCP1発現に影響を及ぼす内分泌因子や飼料因子はなにか?本研究は、肥育牛を用いた試験ならびに細胞培養試験により、上記の問いに対する回答を得ることを目的としている。 研究初年度に以下の6つの課題に取り組んだ。1. 肥育牛における脂肪組織・筋組織でのUCP1発現と生産性の関係を探るため、京都大学附属牧場から出荷された黒毛和種肥育牛の脂肪組織、筋組織サンプルを採取した。2. 肥育期間中の血漿エクソソーム中マイクロRNA濃度変化を検討するための肥育を開始した。3. 10ヶ月齢と30ヶ月齢の肥育牛の血漿中に存在するエクソソーム中マイクロRNAを網羅的に解析した。4. ウシ骨格筋より単離した筋衛星細胞におけるUCP1発現制御を検討した。その結果、ヒトやマウス褐色脂肪細胞でのUCP1発現制御とは異なり、BMPシグナルはUCP1発現を負に制御していることが明らかになった。5. ウシUCP1プロモーターを利用したレポーターアッセイの系を構築した。その手始めとして、UCP2プロモーターを利用して、UCP2に影響を及ぼす因子の探索を行った。6. ウシ初代脂肪前駆細胞分化法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた計画に沿って課題に取り組み、概ね順調に進展している。具体的には、1. 21頭の肥育牛から脂肪組織・筋組織サンプルを採取し、遺伝子発現を検討するための前処理を実施した。2. 肥育期間中の血漿エクソソーム中マイクロRNA濃度変化を検討するための5頭黒毛和種牛の肥育を開始した。3. 10ヶ月齢と30ヶ月齢の肥育牛それぞれ5頭から採血を行い、血漿中に存在するエクソソーム中マイクロRNAを網羅的に解析した。4.ウシ皮下脂肪組織から間質脈管系細胞を単離し、効率的に脂肪細胞に分化する方法を確立した。このうち、エクソソーム中マイクロRNA発現に関して、30ヶ月齢の肥育牛と比べて10ヶ月齢の牛の方が8倍以上高発現している血漿エクソソーム中マイクロRNAは52種類ある一方、低発現しているマイクロRNAは35種類あることが判明し、今後の解析にとくに期待が持てる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、肥育牛の組織サンプルの確保に努める。また、肥育に伴う血漿エクソソーム中マイクロRNA測定のためのサンプリングも継続する。ウシUCP1レポーターを用いて、ウシ特有のUCP1転写調節に関与する因子の同定ならびにその機構を検討する。その上で有用となるのがウシ褐色/ベージュ脂肪前駆細胞株である。研究初年度に確立したウシ初代脂肪細胞培養系を利用して株化、ならびにその特徴付けを行う。さらには、UCP1レポーターを利用してUCP1転写に影響を及ぼす飼料成分の探索を行う。
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