研究課題
イヌの膀胱がんは、悪性度が非常に高く有効な治療法が存在しないことから、新規治療法の開発が獣医療の現場において喫緊の課題となっている。本研究では、新規膀胱がん幹細胞関連遺伝子の機能を解析し、新規治療薬の開発につなげる。さらに、イヌ膀胱がんオルガノイドを用いた新たな培養細胞の創出および臨床検査システムの開発を行うとともに、膀胱がん罹患犬の尿中細菌叢解析によって、オルガノイドの増殖・生存を制御する細菌種を同定し、新たな治療標的とする。今年度は、犬正常膀胱オルガノイド培養法を確立し、作製したオルガノイドが膀胱粘膜の組織構造を再現することや、薬剤感受性の個体差を解析可能であることを明らかにした。さらに犬膀胱癌オルガノイドとの遺伝子発現比較解析を実施し、犬膀胱癌オルガノイドにおいて上皮間葉転換経路やp53経路の活性化が示された(Elbadawy et al., Biomedicine & Pharmacotherapy, 2022)。また、新たな培養法としてこれまでに確立した2.5Dオルガノイドを改変し、腫瘍組織から直接培養可能な2.5Dオルガノイド培養法を確立し、犬の乳腺腫瘍、血管肉腫、肺がんなど様々ながんに適応可能であることを示した(Elbadawy et al., Biomedicine & Pharmacotherapy, 2022)。細菌叢解析においては、膀胱癌罹患犬の尿サンプルを用いた次世代シークエンサー解析によってラクトバチルス属の細菌種が正常犬の尿中に多く、癌罹患犬では減少する傾向がみられた。
2: おおむね順調に進展している
昨年度は主に下記の項目の実験に進捗がみられた。①腫瘍組織由来2.5Dオルガノイド培養法の確立: これまでに確立した2.5Dオルガノイド培養法用いて様々な犬猫の腫瘍組織の培養を試みた。犬の乳腺がんや、膀胱癌、猫の乳がん、肺がんなどの培養効率が従来の培養液に比べて高まることが明らかになり、マウスへの腫瘍再形成能も観察された(Amira et al., Biomedicine & Pharmacotherapy, 2022)。②正常犬由来膀胱オルガノイド培養法の確立: 実験ビーグル犬から尿カテーテルを用いて非侵襲的に膀胱粘膜細胞を回収し、三次元培養を行った。作製した膀胱オルガノイドは膀胱粘膜の細胞マーカーの発現が認められ、電子顕微鏡での観察によっても膀胱粘膜組織の構造を再現することが明らかになった。さらに、膀胱癌罹患犬由来のオルガノイドを用いた次世代シークエンサーによるRNAシークエンス解析を行ったところ、p53パスウェイの異常が膀胱癌オルガノイドにおいてみられた。 (Elbadawy et al., Biomedicine &Pharmacotherapy, 2022)。③尿中細菌叢による膀胱がん幹細胞制御機構の解明: 正常犬5頭、膀胱がん罹患犬16頭の尿中細菌のDNAを収集し、次世代シークエンサーを用いた解析を行ったところ、癌罹患犬の尿ではb多様性の低下とラクトバチルス属の割合の減少がみられた。
本年度は主に下記の項目の実験を進める予定である。①2.5Dオルガノイド培養法を用いた犬猫の難治性腫瘍に対して有効な新規分子標的薬の探索: 獣医臨床に応用可能な分子標的薬を用いて、犬猫の難治性腫瘍から2.5D培養を行い有効な薬剤のスクリーニング試験を実施する。有効性を示した薬剤については作用機序の解明を行うとともに、in vivoでの有効性や健常犬を用いた安全性試験を実施する。②犬膀胱癌オルガノイドを用いた新規治療法の開発: 副作用の発現が低いと考えられている漢方サプリメントに注目し、犬膀胱癌オルガノイドの増殖に対して抑制効果を示すものを探索する。その後、有効性を示した漢方サプリメントの構造解析を実施するとともに細胞内での増殖抑制メカニズムを明らかにしていく。③尿中細菌叢による膀胱がん幹細胞制御機構の解明: 膀胱癌罹患犬の尿中で割合が減少したラクトバチルス菌の抗腫瘍効果を検討する。ラクトバチルス菌を膀胱癌オルガノイドに処置し、細胞生存率を解析するとともに、抑制作用が見られた際には作用機序を詳細に解析していく。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 3件)
Biomedicine & Pharmacotherapy
巻: 87 ページ: 113597
10.1016/j.biopha.2022.113597
巻: 151 ページ: 113105
10.1016/j.biopha.2022.113105