研究課題/領域番号 |
20H03155
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
加藤 大智 自治医科大学, 医学部, 教授 (00346579)
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研究分担者 |
新井 明治 香川大学, 医学部, 准教授 (30294432)
水島 大貴 自治医科大学, 医学部, 助教 (50843455)
山本 大介 自治医科大学, 医学部, 准教授 (90597189)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 吸血昆虫 / 病原体媒介能 / 中腸 / 腸内細菌 / ハマダラカ / サシチョウバエ / リーシュマニア / マラリア |
研究実績の概要 |
病原体媒介性吸血昆虫(ベクター)の体内では、どのような状況で病原体の発育や増殖が促進され、どのような状況では阻害されるのか、病原体媒介の成否や効率に直結するこのイベントの分子機構は明らかではない。本研究では、抗生物質や希少糖の投与といった簡便な方法で病原体の発育・増殖能力を攪乱したベクターを用いて、ベクター内での病原体の発育や増殖の場となる中腸に発現する分子や腸内細菌叢を比較解析し、病原体媒介能を規定するベクター中腸分子の解明を目指す。本年度の研究実績の概要は次の通りである。1)抗生物質投与によってマラリア原虫の感染が亢進したハマダラカで1日後、3日後に発現変動する遺伝子を、RNAseqおよびマイクロアレイにより解析した。RNAseq解析では、抗生物質投与によって4倍以上増加したものは13,611分子のうち、1日後は572、3日後は653、4倍以上減少したものは1日後は444、3日後は505であった。一方、マイクロアレイ解析では、抗生物質投与によって4倍以上増加したものは31,689プローブのうち、1日後は7、3日後は54、4倍以上減少したものは1日後は117、3日後は58であった。変動した遺伝子群の特徴についてはまだ解析段階である。2)希少糖によるハマダラカ体内でのマラリア原虫の発育阻害機構について、腸内細菌に着目して解析を行った。その結果、腸内細菌の構成に大きな変化は見られなかったが、量的な変化が認められた。これが原虫感染阻害作用とどのように関与するのか検討中である。3)蚊の吸血後に起こる一過性の細菌増殖は、中腸の酸素状態にも影響すると考えられる。ハマダラカにおける低酸素応答が病原体媒介に及ぼす影響を、低酸素誘導因子(HIF)の阻害剤等を用いて検討した。複数の阻害剤を蚊に投与して感染実験を行ったが、蚊へのマラリア原虫の感染には影響がみられなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗生物質をハマダラカに投与すると、マラリア原虫の感染が亢進することが知られている。このモデルを用いて、抗生物質投与の有無で、吸血後に蚊の体内でどのような分子レベルの変化が起きているのか、感染血の吸血1日後と3日後の遺伝子発現変動を、RNAseqとオリジナルのマイクロアレイによって解析した。変動する遺伝子を明らかにすることができたが、マイクロアレイ解析に比べ、RNAseq解析では遺伝子の発現差により大きな増幅が認められており、マイクロアレイ解析結果の方が標的遺伝子を絞りやすいように思われる。アノテーションされていない遺伝子がほとんどであるため、予想以上に解析が難航している。現在これまでに得られた解析結果を踏まえて、着目した分子について個々に定量PCRによって再現性等解析を進めている。一方、吸血によって感染したハマダラカの体内でのマラリア原虫の発育・増殖に影響を及ぼす糖類を探すことを目的とし、特徴の異なる糖類(単糖類、二糖類、多糖類、希少糖など)を16種類選定してスクリーニングしたところ、ある希少糖のみでマラリア原虫の発育阻害効果が見られた。この阻害は希少糖のマラリア原虫への直接作用ではないことが分かったことから、希少糖による腸内細菌叢の変調に焦点を当てて解析を行った。その結果、希少糖投与群とコントール(フルクトース投与)群の間には細菌叢の構成に変化は見られなかった。しかしながら、蚊の吸血後に見られる一過性の腸内細菌の増殖が希少糖投与群では抑制されており、このことがマラリア感染の抑制と何らかの関係があるのかもしれない。現在はこれら2群間で変動する蚊の中腸分子に焦点を当て、マラリア原虫の発育に影響を及ぼす分子の解析を進めている。また、ハマダラカ体内の低酸素応答がマラリア原虫感染に及ぼす影響を、HIF阻害剤等を用いて検討したが、影響は見られなかった。
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今後の研究の推進方策 |
1. 抗生物質の投与によってマラリア原虫感染が亢進したハマダラカで発現変動した遺伝子の解析:これまでのRNAseqやマイクロアレイ解析によって得られた結果をもとに、注目した遺伝子について個々に定量PCRを行い、再現性等を確認する。 2.希少糖の投与によってマラリア原虫感染が阻害されたハマダラカで発現変動する遺伝子の解析を行う:希少糖の投与によってハマダラカで発現変動する遺伝子について、オリジナルのマイクロアレイを用いて解析する。変動がみられた遺伝子については、個々に定量PCR解析で詳細に検討する。 3.病原体発育・増殖に対する中腸分子の効果:病原体の発育・増殖に関与することが示唆される中腸分子の組換えタンパクを作製し、その機能の解明や原虫への効果を検討する。また、中腸分子の遺伝子ノックダウン等による病原体の発育・増殖阻害(または促進)効果について検討する。 4.サシチョウバエ中腸分子の探索:抗生物質を投与し、リーシュマニア原虫感染能が著しく低下したサシチョウバエの中腸でどのような遺伝子が発現変動するのか、特に中腸の表面分子や原虫感染に影響を及ぼす免疫関連分子に注目して解析を行う。
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