研究実績の概要 |
増殖細胞は、変性タンパク蓄積、オルガネラ機能不全、栄養飢餓に陥りやすくなる。合成亢進にともなうストレスと脆弱性を生体がどのように克服しているのか多く謎に包まれている。これまでの申請者らの解析よりp53変異がんの腫瘍形成に重要な因子としてPI5P4Kβを同定し(Cell, 2013)PI5P4KβがGTPセンサーとしてがん増殖を促進することを報告した(Molecular Cell, 2016)。癌がGTP合成を増大させてGTP濃度が高める仕組みと、増大したGTP合成が癌細胞の同化作用の基盤となることを見出した(Nat Cell Biol, 2019)。PI5P4Kbetaはp53と連関し、GTP濃度が高まる癌や増殖細胞において何らかのストレス応答に重要であると考えられる。しかしながら、PI5P4Kβはイノシトール脂質キナーゼの分野において、黎明期に同定された初期メンバーであるにも関わらず、いまをもって最も謎に包まれたキナーゼである。 現在、癌やシグナル伝達の分野では横綱級の重要分子として知られるclass I PI3Kは、その下流のセカンドメッセンジャー、PI(3,4,5)P3 (PIP3)が、AKTと結合することが分かり、爆発的に研究が進んだ。現在、PI3K経路標的とした様々な疾患治療戦略が可能となっているのは、PI(3,4,5)P3-AKTの経路が明らかとなり、薬効マーカーとしても使用できることが大きい。そこで、PI5P4K研究の壁を突破するべく、PI5Pのシグナル伝達経路について独自に確立したGTP不感知型PI5P4Kbetaを発現する細胞を用いて、トランスクリプトーム解析を行った。同様にプロテオーム解析も行った。その結果、幾つかの候補シグナル経路が浮かび上がり、これらに絞った解析が行える体制となりつつある。
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