研究課題/領域番号 |
20H03175
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
蓮輪 英毅 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (50343249)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ゴールデンハムスター / PIWI / piRNA / 生殖細胞 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
哺乳類のPIWI遺伝子はpiRNAとともに雄の生殖細胞でトランスポゾンの抑制分子として機能することが知られている。これらの知見はマウスを用いた研究から明らかにされたものである。ところが、ヒトをはじめとするほとんどの哺乳動物は雌の生殖細胞にもPIWI遺伝子を強く発現しており、マウスよりも1つ多くPIWI遺伝子を有する。申請者はこれまでに雌の生殖細胞で強く発現するPIWIL1とPIWIL3を見出し、それらに結合するpiRNAの解析を進めてきた。その結果、PIWIL1は排卵前の卵子では29塩基前後のpiRNAと結合し、排卵後速やかに短いpiRNAと結合し、受精後では結合するほとんどのpiRNAが23塩基前後のpiRNAとなることを明らかにした。一方で、PIWIL3は排卵直前に分子量が50KDa大きくなること、それがリン酸化によるものであり、リン酸化修飾をうけたPIWIL3だけがpiRNAと結合できることを明らかにした。さらに、PIWIL3に結合するpiRNAはマウスを用いた研究では想像できなかった19塩基という短いpiRNAと結合していることを明らかにした。これらのpiRNAの詳細を解析するためにゴールデンハムスターゲノムをシーケンスし、トランスポゾンの解析を行い、アノテーションできたpiRNAのほとんどはトランスポゾン由来であることを明らかにした。また、雌雄の生殖細胞におけるpiRNAの比較ではほとんど異なっていること、つまり雌雄の生殖細胞ではpre-piRNAのtranscriptが異なることを明らかにした。これらの研究成果については、Nucleic Acid Research, vol. 49, 2021に報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者が所属する慶應義塾大学医学部は東京都にあることから、コロナウイルス感染症に対する緊急事態宣言により研究活動の制限など影響を受けたが、ゴールデンハムスターゲノム解析および雌の生殖細胞でPIWIL1とPIWIL3に結合するpiRNAの配列解析を実施し、Nucleic Acid Researchに報告した。 これまでにゲノム編集により改変したPIWIL1とPIWIL3欠損ハムスターについては、それらの解析を進めた。PIWIL1欠損ハムスターは雌雄ともに不妊の表現型を示し、雄はマウスと同様にアクロソームが形成される前のドット状のプロアクロソームのステージまで分化することを明らかにした。雌では見かけ上正常な卵子が形成され、受精し2細胞期まで発生するがそれ以上は発生しないことを明らかにした。一方でPIWIL3を欠損した卵子も正常に見えるが、受精後の発生に異常があり一部が発生途中で停止することを明らかにした。これらの成果は現在投稿中で、修正および追加実験を実施してる。 また、今年度に予定していたPIWIL2とPIWIL4のゲノム編集ハムスター作製については、ゴールデンハムスターがコロナウイルス感染モデルとしての有用性が示されたため、入手が困難となり、翌年度以降に実施することにした。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度はコロナウイルス感染症の影響もあり、研究活動の制限やゴールデンハムスターの確保に問題が生じた。現在のところ、ブリーダーのゴールデンハムスターの在庫状況は回復しているためPIWIL2およびPIWIL4のゲノム編集を実施する。ゴールデンハムスターの初期胚は環境の影響を受けやすく、胚培養が難しいという欠点があったが、これまでの研究を通しゴールデンハムスター初期胚の培養技術を確立したことから、効率的なゲノム編集動物作製を実施できると考えている。 PIWIL1とPIWIL3欠損ゴールデンハムスターについては、それぞれが示す表現型の違いとpiRNAの特徴をより詳細に解析する。それぞれのPIWIのどのような機能が2細胞での発生停止や不均等な割球の分割を起こすのか、その際の遺伝子発現やゲノム構造の変化にも着目し解析をすすめる。 これらの研究を通して、卵子で発現するPIWI-piRNAが初期発生に及ぼす影響(機能)について明らかにし、ヒト胚の不育症などとの関連について考察する。
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