研究課題/領域番号 |
20H03177
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研究機関 | 公益財団法人実験動物中央研究所 |
研究代表者 |
渡部 聡朗 公益財団法人実験動物中央研究所, マーモセット医学生物学研究部, 研究員 (40715405)
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研究分担者 |
山海 直 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター, 再雇用職員 (80300937)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | マーモセット / 精子幹細胞 / ノックイン / 生殖工学 / PIWIL4 / 生殖細胞 / 細胞分裂 / 幹細胞 |
研究実績の概要 |
霊長類におけるノックイン個体作製において問題になるのが、低い遺伝子改変率である。確実に目的の個体を産生したい霊長類では、ノックイン胚の移植前選抜が必要になる。初期胚でも発現するような遺伝子をターゲットにして、超高感度な化学発光レポーターであるNanoLucを目的遺伝子と連結してマーモセット受精卵の前核にノックインした。化学発光が起こった胚においてはノックインが起こっていることが確認された。50個の胚を調べて20%程度の率でノックインが見られたが、多くの胚がモザイクであった。ノックイン効率向上によるモザイクの軽減が今後の課題である。
ヒト精巣のsingle cell RNA-seq解析により、ヒト精子幹細胞はいくつかのsubpopulationに分かれ、その最も上流に位置する細胞はPIWIL4をマーカーとして発現することが明らかになっている。これまでにマーモセットでもヒトと同様な精子幹細胞系が存在することを明らかにしてきた。今年度はPIWL4に対するポリクローナル抗体を作製し、マーモセットの最上流の精子幹細胞が免疫組織染色により検出できるようにした。PIWIL4を発現する細胞集団は細胞分裂に関わるマーカーの発現がRNA-seq解析でみられなかったため、その集団の分裂状態を調べることにした。そのために、二週間継続的にBrdUをマーモセットに投与し、精巣を採取した。その結果、PIWIL4を発現する精子幹細胞はまったくBrdUを取り込んでいなかった。このことから、活発に分裂するマウスの精子幹細胞とは異なり、霊長類で上流に位置する精子幹細胞はほとんど分裂していないことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
霊長類の精子幹細胞系を理解することと、マーモセットにおける新しい遺伝子改変法の開発を目的として本研究はスタートした。遺伝子改変法の開発に関しては、研究計画段階で考案していた初期胚でのノックイン選抜法が予想通りに機能することを示した。そのため、計画通り進展していると言える。精子幹細胞系の理解に関しては、計画以上の進展が見られている。当初の予想を超えて、霊長類の精子幹細胞系についてこれまでにない新規知見が明らかになってきている。さらに精子幹細胞系の理解にとどまらず、霊長類特有な精子幹細胞が進化した意義に関する仮説を構築しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
新規遺伝子改変技術の開発については、マーモセット精巣へのウイルスinjectionによる遺伝子改変マーモセット作製に取り掛かる。精子幹細胞に遺伝子が組み込まれるような条件をレポーター遺伝子を用いて決定する。その後、精子を介して次世代にそのtransgeneが伝達されるかを調べる。
霊長類精子幹細胞の研究に関しては、引き続き理解を深めるためにマーモセットを用いて実験を行う。長期BrdU投与実験およびシングルセルRNA-seq解析を進める。また、マーモセットで明らかになった知見がヒトを含めた他の霊長類にも当てはまるのかを明らかにするためにカニクイザルを用いた実験も行う。カニクイザルへのBrdU投与実験により、カニクイザル精子幹細胞の細胞分裂について理解する。サルの結果をヒトに外挿する。
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