遺伝子改変霊長類は霊長類の生物学研究に大きく貢献しうる。多くの産子が得られない霊長類では、受精卵ベースの方法よりも、目的の変異を持った細胞をあらかじめ選抜することができる精子幹細胞やES細胞ベースの個体作製法の方が、より確実に遺伝子改変個体を作れると考えられる。しかしこれまでそのような方法は開発されていない。本研究では霊長類のマーモセットにおいて、精子幹細胞からの個体産生を目指し精子幹細胞の樹立を行うことを目的とした。昨年までの研究により、意外なことに霊長類の精子幹細胞はほとんど分裂を行っていないことが明らかとなった。霊長類精子幹細胞を培養を行うためには、その性質・動態の理解が最優先と考え、本年度は大規模なシングルセル解析を行った。マーモセット精巣からFACSによって精子幹細胞を分離し、single cell RNA-seq/ATAC-seqのマルチオミクス解析を行った。次元圧縮解析とクラスター解析の結果、精子幹細胞がいくつかのsubpopulationに分かれ、特定のsubpopulationでのみ分裂が行われていることが示唆された。そのsubpopulationにおいてはGDNFのレセプターであるGFRA1が比較的多く発現しており、霊長類の精子幹細胞の分裂もマウス同様にGDNFによって促進されると考えられた。 霊長類に精子幹細胞を移植するために、動物への苦痛を軽減すると同時に効率的に精巣から精子幹細胞を除去する方法を開発することにした。生殖細胞特異的にHSVチミジンキナーゼを発現させ、ガンシクロビルを投与することで、精子幹細胞を除去する系をマウスで検討した。生殖細胞特異的遺伝子座にチミジンキナーゼをノックインしたマウスを作製した。低用量のガンシクロビルで苦痛を与えることなく、効率的に生殖細胞を除去することができた。
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