本研究計画は、分子遺伝学的手法を用いて、翻訳終結状態を識別する分子機構を解明し、mRNA上の翻訳終結のための因子群の動態を可視化する新規手法を開発することを目的とする。今年度は、新たに特定した因子および機能ドメインに対して、公表済みの機能ドメインレベルの解析を実施した。昨年度に引き続き、計画[1]の分子遺伝学的解析の基礎的なシステム構築パイロット実験に基づいた実験を進めた。具体的には、reverse genetics法を用いて、正常および異常な翻訳終結に関わる因子群の変異体を作成し、その機能を検証した。計画[2]の実践投入の予備的実験を踏まえ、翻訳終結状態を識別する分子機構の分子遺伝学解析を進め、mRNA上の翻訳終結のための因子群の動態を可視化する新規手法の開発を行った。具体的には、リボソーム停滞による翻訳終結に関わるリボソームタンパク質の網羅的検索により、いくつかの新規機能ドメインを特定することに成功した。split-TRP1 assay法を用いて、近接する前後のリボソーム間の相互作用を検出する手法を開発した。この新手法を用いながら新たに特定した因子および機能ドメインに対して、公表済みの機能ドメインレベルの解析を実施した。具体的には、上記探索により明らかにされたリボソーム小サブユニット上のAsc1、S20タンパク質のそれぞれにTRIP1タンパク質のN末端側ドメインとC末端側ドメインを融合したタンパク質発現系を酵母細胞株に導入しリボソーム停滞誘導下でmRNAの前後するリボソーム間の両タンパク質の近接が起きることを示した。また、それぞれのタンパク質の分子表面上に、ユビキチン化に関与するHel2がアクセスする領域が形成されることを明らかにし、論文として公表した。これらの研究成果は、翻訳終結の分子機構の解明に貢献するだけでなく、新規創薬の標的候補の探索にも役立つことが期待される。
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