研究課題
tRNAメチル化酵素FTSJ1の破綻により知的障害が発症するが、その分子機構は未解明であった。本年度は、Ftsj1ノックアウトマウスを用いてこの知的障害の発症機構を解明し、その成果をScience Advances誌で報告した。この成果における特筆すべきこととして、Ftsj1によるメチル化の欠損により脳でフェニルアラニンtRNAだけが顕著に分解しやすくなり、その結果脳でフェニルアラニンコドンの翻訳が低下することを解明できた。これは、tRNA修飾病の発症機構の解明という観点で意義深い。また、Ftsj1によるメチル化欠損がなぜ脳のみでフェニルアラニンtRNAの分解を防ぐかは、今後の新たな研究課題として興味深い。総説論文として、これまで明らかにされている把握可能な全てのヒトのtRNA修飾、ヒトのtRNA修飾酵素遺伝子、tRNA修飾異常による疾患に関する知見をまとめた論文を、FEBS Journal誌で発表した。当初計画していた「ジカウイルスによるtRNA修飾」の研究は仮説どおりの結果とはならなかったが、ジカウイルス感染における細胞内修飾ヌクレオシドの役割を所属研究室が明らかにし、その成果を投稿中である。さらに、HIV-1感染における宿主RNA修飾の予想していなかった新たな役割を解明し、この成果も投稿中である。本プロジェクトに関連して、RNA修飾を操作する全く新しいコンセプトの技術を着想し、培養細胞レベルでこの技術が使用可能であることを実証した。この成果は、本プロジェクトで得た知見を基盤とすることで初めて着想できたものである。この技術は今後、他の研究費のもとでRNA修飾病の治療法として開発・実用化を推進したい。
1: 当初の計画以上に進展している
tRNAメチル化の破綻による知的障害の発症機構に関する重要な論文がScience Advances誌に掲載された。ジカウイルス研究は当初の仮説と一致する結果は得られなかったが、ジカウイルス複製におけるRNA修飾の役割を所属研究室が発見した。さらに、ウイルスとエピトランスクリプトミクスの関連を探求する研究として新たに実施した、HIV-1複製におけるRNA修飾の機能に着目した研究において、期待を大きく超える発見を得た。これはこの研究を実施した大学院生の特筆すべき観察力と粘り強さによるものである。加えて、本プロジェクトで得た知見を基盤とすることで、全く新しいコンセプトの遺伝子発現制御技術のコア技術を開発できた。
本プロジェクトのコンセプトである、tRNA修飾の生体機能と関連疾患の発症機構を引き続き探求する。特に、RNA修飾病の中で最も原因変異遺伝子数が多い知的障害について、その発症機構を新たに解明する。具体的には、現在解析中の知的障害モデルノックアウトマウスの解析に加えて、学内の共同研究により新たな知的障害マウスの作製も開始する。加えて、投稿中のウイルス複製とRNA修飾の関連を明らかにした2つの論文のアクセプトに向けた追加実験等を実施する。さらに、RNA修飾病の発症メカニズムを解明する基盤となる知見を得るために、新たなtRNA修飾酵素遺伝子の同定も行う予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
FEBS Journal
巻: Online ahead of print ページ: Open online
10.1111/febs.15736.
Science Advances
巻: 7 ページ: eabf3072
10.1126/sciadv.abf3072.
Cell Reports
巻: 31 ページ: 107464
10.1016/j.celrep.2020.03.028.
https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei/20210327