様々な生物のゲノムに存在する転移因子はゲノム進化の推力であるともに、ゲノム安定維持の脅威でもある。そのため、宿主により転移因子の発現は適正に制御されている。興味深いことに、転移因子発現制御機構が欠失したショウジョウバエ変異体の卵巣内において、転移因子である内在性レトロウイルス(ERV)の一部が過剰発現し、細胞間を伝播されていることが報告された。正常なショウジョウバエ卵巣でも一定のERVの発現が観察されることから、ERV細胞外粒子を介した細胞間情報伝達機構の存在が期待される。本研究では、どのようにERV粒子が形成・伝播され、どのような生理的意味を持つのか、その形成と伝播機構の包括的な理解を目指す。 これまでに、卵巣性体細胞由来の培養細胞(OSC)の培養上清から粒子画分を得た。この画分に含まれる粒子のサイズは約80nmであり、一般的なウイルス粒子の大きさに相当する。この画分には、数多くのERV由来のRNAが含まれていた。さらに、細胞外に放出されるERV由来RNAには、配列選択性が観察された。一方で、細胞外粒子画分で観察されたERV(Gypsy)にコードされたGag蛋白質に対する抗体を作製した。本抗体を用いた解析により、細胞外粒子画分にGypsy Gagタンパク質の存在が明らかとなった。さらに、免疫蛍光観察により、Gypsy Gag蛋白質が細胞質において顆粒状として存在することや膜画分に局在することを明らかにした。興味深いことに、Gypsy Gag蛋白質は、Midbodyと呼ばれる細胞分裂時に形成される膜構造体にも局在する。さらに、Gypsy Gag相互作用因子としてMidbody形成因子を同定した。Midbodyは細胞間細胞情報伝達粒子としての報告がある。以上のことから、ERVは粒子を形成し、宿主機能を利用し細胞外へ放出され、細胞間を移行する可能性が示唆された。
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