研究課題
本研究では、ヒストン修飾酵素によるヘテロクロマチンの形成と維持の分子機構を明らかにするために、以下の2つの課題を中心に研究を実施した。【1】ヒストンメチル化酵素複合体の機能解析:分裂酵母のヒストンメチル化酵素であるClr4は、Rik1、Raf1、Raf2、Cul4とともにCLRCと呼ばれる複合体を形成しているが、Clr4がどのように複合体形成に関与しているか明らかにされていない。先行研究によって、Clr4のSETドメインがCLRCとの相互作用に必要なことを明らかにした。本年度はClr4のSETドメインがCLRCのどの構成要素と相互作用しているか、酵母ツーハイブリッド法で検討し、物理的に相互作用している構成因子の同定に成功した。またCLRCの生化学的特性を明らかにするため、CLRCの精製法の改良を進めるとともに、各構成要素に異なるタグを付加した酵母株を構築し、CLRCの各構成因子の特性をゲル濾過クロマトグラフィーによって解析した。【2】Clr4のメチル化活性制御の分子機構:先行する研究によって、Clr4のメチル化活性が、クロモドメインを含むN末端によって制御されている可能性が示唆された。そこで本年度は、触媒活性を担うC末端側のSETドメインとN末端側の領域が相互作用するか検討した。それぞれの領域をリコンビナントタンパク質として発現・精製し、プルダウンアッセイを行ったところ、実際にそれぞれの領域が相互作用していること、またその相互作用にはクロモドメインと隣接する領域が協調的に関与していることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
Clr4がどのようにユビキチン化に関わるCul4等のサブユニットと複合体を形成しているかはほとんど明らかにされていない。本研究によって、初めてClr4が直接相互作用している因子を特定できたことは、重要な研究の進展と評価できる。CLRCの精製に関して、分裂酵母内の存在量が想定していたよりも微量であることが分かり、種々の解析に用いるための標品を得るためには、出発材料を多く用意する必要があることが判明したが、研究費を次年度に繰り越して対処することで、解析に供するための試料を調製することができた。Clr4の活性制御に関しては、実際にN末端領域とC末端領域の相互作用を初めてin vitroで示した結果は重要な成果であると考えられる。
【1】ヒストンメチル化酵素複合体の機能解析については、本年度の研究で特定したClr4と直接相互作用する構成因子について、どの領域がその相互作用に関与しているか、さらに詳細な解析を遂行する。またCLRCの精製に関しては、引き続き精製とその生化学的特性の解析を進める。【2】Clr4のメチル化活性制御の分子機構については、Clr4のN末端とC末端の相互作用を再度検証すると共に、相互作用に必要なドメインや残基の特定を試みる。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
Methods in Molecular Biology
巻: 2161 ページ: 89-99
10.1007/978-1-0716-0680-3_8
eLife
巻: 9 ページ: -
10.7554/eLife.58675