研究実績の概要 |
3本のDNA鎖からなるY字型のDNA構造体(Y-DNA)が、相補配列を有する末端部分を介して分子間で相互作用し、コンデンセートを形成することが報告されている(Sato et al., Science Advances, 2020)。本研究ではこの系を用いて、コンデンセートを形成する核酸およびそこに内包された分子のダイナミクスをNMR法により解析した。 Y-DNAのコンデンセート試料(i)と、Y-DNAのコンデンセートの内部環境を調べるために、コンデンセート形成に関与しないテロメア配列からなるDNA(teloDNA)をコンデンセート中に導入した試料(ii)を調製した。さらに(i), (ii)を遠心分離し、下層(コンデンセート状態)と上層(分散状態)に分け、それぞれに含まれるY-DNAおよびteloDNAの拡散係数(並進運動を反映)と横緩和時間(回転運動を反映)をNMR法によって導出した。 (i)に関し、コンデンセート状態のY-DNAの拡散係数と横緩和時間は、分散状態中に比べ、共に小さい値であった。これは、コンデンセート中では、Y-DNAどうしがネットワークを形成することで、並進運動と回転運動が共に抑制されていることを示唆している。一方、(ii)に関し、コンデンセート状態中のteloDNAについては、分散状態に比べ、拡散係数は小さい値を示すが、横緩和時間には明確な違いが見られなかった。このことから、コンデンセート状態では、Y-DNAのネットワーク形成によってteloDNAの並進運動が分散状態に比べて抑制されるが、回転運動は影響されないことがわかった。このことは、コンデンセートによる区画化された反応場の形成とその将来的な応用という観点から興味深い知見である。
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