研究課題/領域番号 |
20H03195
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
山下 敦子 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (10321738)
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研究分担者 |
日下部 裕子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品研究部門, ユニット長 (90353937)
清中 茂樹 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (90422980)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 受容体 / 味覚 / 構造解析 |
研究実績の概要 |
メダカ味覚受容体T1r2a/T1r3リガンド結合ドメインについて、構造未解明のコンフォメーション捕捉を目的とした構造解析を実施した。まず、これまで結晶化できなかった味物質アミノ酸非結合状態試料を調製し、創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム事業を利用して、クライオ電子顕微鏡単粒子解析法による構造解析を試みた。その結果、複数回のクラス分け後においても得られた平均像の収束が見られず、高分解能構造決定はならなかったものの、アミノ酸非結合状態にある同タンパク質が極めて多様なコンフォメーションをとっていることを明らかとした。 また、受容体に結合を示すが顕著な応答を誘起しないアミノ酸2種の結合状態の結晶を作製し、X線結晶構造解析にて立体構造を決定した。その結果、これらのアミノ酸の結合状態は、応答を誘起するアミノ酸の結合状態と、コンフォメーションに大きな違いが見られないことが判明した。さらに、これまでの解析結果から、コンフォメーション変化が期待できる結合イオン置換状態の試料調製を行い、結晶を作製した。加えて、コンフォメーション捕捉リガンドとしての作用も期待できる、T1r細胞外領域に特異的に結合するタンパク質を新たに見出した。 また、金属錯体配位による味覚受容体コンフォメーション捕捉について、同受容体と類似した作動機構を示す一方、より試料調製が容易なモデルタンパク質を用いて、変異導入と機能制御能の検証を行い、金属錯体配位により受容体活性が阻害される変異部位を同定した。 さらに、T1r2に結合するアンタゴニストを新たに同定し、T1r2およびT1r3の変異体を用いた作用機序の解析を行った。その結果、T1r2の膜貫通ドメイン、システインリッチドメインが協調してT1r2/T1r3の抑制作用に関わり、この作用にT1r3も補助的に関わる可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の目標は、コンフォメーションが異なる複数の構造状態を捉え、そこから受容体によるシグナル伝達メカニズムを解明することにある。その意味において、クライオ電子顕微鏡法により、アミノ酸非結合状態のコンフォメーションが極めて多様なコンフォメーションのアンサンブルから成り立っていることを明らかにしたことは、それぞれのコンフォメーションの構造決定そのものには至らなかったものの、本課題の目標の妥当性を示す結果が得られたと言える。今年度は、受容体機能制御の様相が異なることが期待できるリガンドを導入しての構造決定を行い、またコンフォメーションの違いが期待できる条件下での結晶作製を達成した。その意味では、結果として異なるコンフォメーション捕捉にはいたらなかったものの、目標の達成に向け着実に解析を進めているところであると言える。さらに、T1rの細胞外領域に特異的に結合する新たなタンパク質や、これまでと異なるコンフォメーション捕捉が期待できるアンタゴニストを見出すなど、研究開始時には予想していなかった予備的結果を得た。この結果は、今後同タンパク質などを利用したT1rのコンフォメーション捕捉と構造決定の可能性を示すものである。 以上から、計画の多くの項目において順調に進展し、目標の達成に向け研究を進めていることから、本課題はおむね順調に進捗していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に構造決定した受容体応答非誘導アミノ酸結合体については、結晶の分解能向上も含め構造解析を継続し、受容体応答を引き起こさない構造要因を解析する。また、作製した結合イオン置換状態結晶については、X線回折強度データ収集と構造決定を行い、すでに得られている構造と比較して、コンフォメーションやその他の構造の違いを明らかとする。さらに、T1r細胞外領域と結合タンパク質の発現・精製条件を確立し、クライオ電子顕微鏡単粒子解析法またはX線結晶構造解析による構造解析に進める。並行して、これらのT1r試料に対する新たなリガンド探索も行い、Ca2+ mobilization assayによる作用同定も行った上で、順次結合状態での構造解析に進める。加えて、金属錯体配位状態のモデル受容体タンパク質や味覚受容体タンパク質について、構造解析に着手する。これらの解析を進め、異なるコンフォメーションにおける構造情報や、このための構造捕捉条件に関する知見を蓄積・統合することで、味覚受容体シグナル伝達機構解明を目指す。
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