研究課題/領域番号 |
20H03208
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
嘉村 巧 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (40333455)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | タンパク質分解 / ユビキチン |
研究実績の概要 |
ユビキチン・プロテアソーム系を介したタンパク質分解は、細胞周期進行やシグナル伝達など多岐にわたる生命現象に重要な働きを果たしている。現在までの精力的な研究により生体内に非常に多くのE3が存在し、基質特異性を決める役割を果たしていることが明らかになっている。その中でもSCF複合体(出芽酵母ではE3の約2割を占める)が重要な役割を担っていることが予想されているが、技術的困難さのため、酵素と基質の対応関係が明らかになっているのはごく僅かである。最近我々は出芽酵母の充実したリソースとデータベースを活用することにより、短寿命タンパク質(基質候補タンパク質)から対応するE3を同定する方法を見出している。この方法を用いて、すでにBdf2、Vhs1など複数のSCF複合体の新規基質の同定に成功している。そこで本研究では、この方法を用いてSCF複合体の新たな基質の同定・解析を進めること目的としている。われわれはストレス応答因子のひとつであるTmc1 (Trivalent Metalloid sensitive, Cuz1-relatedprotein)に注目し解析を進めている。Tmc1は半減期約40分と短寿命タンパク質であり、先行研究より、ストレス応答性転写因子Rpn4によって転写が活性化され、様々なストレス (カドミウム、DNA複製ストレスなど)応答時に発現量が制御されることが報告されている。出芽酵母E3欠失株、温度感受性変異株を用いた網羅的解析により、Tmc1がSCF複合体依存的に分解されることを見出した。さらにTmc1の機能解析を進め、①Tmc1がヒ素が存在する環境中で発現が増大すること、②TMC1欠損変異体は3価ヒ素に感受性を示すこと、③Tmc1はヒ素存在下においてARR2の転写を誘導することを見出した。現在、分解によるTmc1の機能制御機構を調べている最中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
われわれはSCF複合体の新規基質の同定を進めている。出芽酵母のデータベースより網羅的に短寿命タンパク質を選び、その分解を制御するE3の同定を進めている。その過程で、ストレス応答転写因子であるmc1がSCF複合体依存的に分解されることを見出し、その解析を進めているところであることより、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1. 新規基質のF-boxタンパク質群による認識機構の解析 野生株およびE3欠失株より免疫沈降法で内在性の基質を精製する。質量分析でE3欠失株において増えている修飾およびその部位を同定する。野生型および修飾部位に変異を持つ基質の発現ベクターを作製し、酵母内でのF-boxタンパク質との結合を調べる。 2. 新規基質に対する試験管内ユビキチン化反応の検討 野生型あるいは1.で同定した修飾部位に変異を持つ基質を大腸菌で発現させリコンビナントタンパク質を精製する。バキュロウイルス発現系を用いてSCF複合体を精製し、ユビキチン化反応に必要な酵素E1とE2そしてユビキチンさらにATPを加え基質と反応させ、試験管内で基質へのユビキチン化反応を起こすことができるかどうかを検討する。 3. 新規基質に対する細胞内分解の検討 2.の試験管内ユビキチン化反応により得られた情報を細胞内で確認する。野生型あるいは変異型の基質とF-boxタンパク質を出芽酵母に発現させ、基質に対する抗体を用いて免疫沈降する。SDS-PAGEで展開した後、抗ユビキチン抗体でウェスタンブロットを行う。野生型の基質はユビキチン化されるのに対し、変異型の基質はユビキチン化されないはずである。また、シクロヘキシミドチェイス法により基質の半減期を測定する。 4. 新規基質の分解制御による細胞生物学的影響の検討 F-boxタンパク質の過剰発現、遺伝子欠失によって基質の発現を制御することにより、どのような細胞生物学的変化が現れるかを解析する。 5. データベースを用いた高等生物でのホモロジー検索および機能解析 上記研究で同定した基質を基にデータベース検索を行い高等生物にホモログが存在するかどうかを調べる。もしもホモログが存在すればそれらの機能解析を行う。
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