研究課題/領域番号 |
20H03209
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
申 惠媛 京都大学, 薬学研究科, 准教授 (10345598)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 生体膜 / 脂質二重層 / メンブレントラフィック / フリッパーゼ |
研究実績の概要 |
本研究では、生細胞における膜脂質の動的変化の生理的意義を明らかにするため、脂質フリッパーゼのP4-ATPaseを中心に研究を進めている。本年度は、特定のP4-ATPaseのオートファジーを介する非定形型分泌経路を調べているうち、P4-ATPaseがオートファゴソーム形成過程に関与することを見出し、解析を行った。ゴルジ体やエンドソームに局在するATP9Aをノックアウトした細胞では、飢餓およびラパマイシンによって誘導されるオートファジーが阻害されることをLC3の免疫染色で確認した。さらに、このノックアウト細胞では、LC3のLipidationに関わるATG16L1複合体のオートファゴソーム形成サイトへの集積も阻害されていた。そこで、さらにその上流のATG16L1の集積に関与するPI3Pの生成を調べたところ、オートファゴソーム形成サイトにおけるPI3P産生が低下していることが分かった。そこで、P3Pを産生するPI3Kの集積を調べたところ、飢餓時にPI3Kのオートファゴソーム形成サイトへの集積も阻害されていた。さらに、これらのすべての表現型はノックアウト細胞に野生型のATP9Aを発現する細胞では回復するものの、そのフリッパーゼ活性を欠損した変異体を発現する細胞では回復しないことが分かった。一方で、オートファジーの開始シグナルとして機能するULK1は、ATP9Aノックアウト細胞でもオートファゴソーム形成サイトに正常に集積していた。したがって、ATP9Aはオートファジーの開始シグナルには影響を与えないが、隔離膜形成の初期段階で機能することが示唆された。さらに、これらのATP9Aのノックアウトによる異常は、フリッパーゼ活性欠損の変異体の発現では回復できないことから、ATP9Aのフリップ活性がの初期の隔離膜形成に必要であることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非定型分泌経路への関与を調べているうちに新たにP4-ATPaseが初期のオートファゴソーム形成に関わることを見出した。ノックアウト細胞やノックアウト細胞に野生型および変異体を発現する細胞の解析からフリッパーゼ活性が初期の隔離膜形成に関わることを示唆した。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度のフリッパーゼのATP9Aノックアウトの表現型は、スクランブラーゼのATG9Aノックアウトの表現型と類似することやATP9AとATG9Aがゴルジ体とエンドソームで共局在することから、ATP9Aの活性がATG9小胞の形成に関与するかを検討する。 また、非定形型分泌経路のみならず、定形型分泌経路におけるP4-ATPaseの役割をノックアウト細胞やノックアウト細胞に野生型および変異型を発現させた細胞を用いて検討する。ゴルジ体に局在するP4-ATPaseがゴルジ体からの小胞形成および輸送への関与を調べる。また、神経内分泌細胞を用いて、P4-ATPaseの分泌顆粒の形成や輸送への関与を調べる。これまでに申請者が見つけてATP9結合タンパク質との関連を考察しながら、分泌経路におけるP4-ATPaseの機能およびその分子メカニズムを明らかにしていく。 ATP9AやATP9Bは主に細胞内オルガネラに局在することから、細胞を用いたフリッパーゼアッセイによる基質の同定は不可能であった。そこで、従来のATPase活性測定法を改良したアッセイ法を確立しその基質の同定を試みる。
|