研究課題/領域番号 |
20H03220
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
本間 道夫 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (50209342)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | エネルギー変換 / 分子構築 / タンパク質構造 / 膜タンパク質 |
研究実績の概要 |
べん毛モーターは、電気モーターと同様に、固定子部と回転子部に機能的に分けられる。べん毛回転は、細胞膜上の固定子中をイオンが透過し、固定子-回転子間の相互作用が変化し、回転力が生じる。これまでの研究から、遺伝学的には、固定子と回転子の相互作用が示されているが、生化学的には解明できていない。そこで本研究では、残基特異的な光架橋法とジスルフィド架橋法によって、固定子-回転子間で架橋を形成する残基の特定を行った。その結果、これまでに遺伝学的に示されていた荷電性残基に加え、その周辺に複数の相互作用残基が実際に相互作用していることを直接的に示すことができた。光架橋された残基の中で、特に架橋効率の良かったPomA K89、FliG R281、D288を中心に、PomAとFliGにそれぞれシステイン残基を導入し、ジスルフィド架橋を形成させた。その結果、PomAとFliGの架橋産物が形成され、固定子-回転子間相互作用を行う残基ペアを同定した。これらの結果を昨年構造解析された固定子複合体の構造解析結果と合わせ、固定子と回転子がギアのように噛むような相互作用によって回転力をつくるモデルを提案した。これは、べん毛の回転力発生に必須な固定子-回転子間相互作用の本質に迫れる道を開いたものである。さらに、べん毛モーターの活性化を制御することが報告されているビブリオ菌PomBのプラグ領域に着目し、部位特異的光架橋技術を用いて、プラグ領域と相互作用するPomAの領域を探索した。そして、PomA-M169CとPomB-I50Cで、架橋反応が起こることを示すことができた。この二重変異により運動能が酸化状態で阻害され、還元剤で解消された。我々の実験で、確かにPomAの細胞外ループ領域とプラグ領域が相互作用して、イオン流入を止めていることが明らかにされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年、クライオ電子顕微鏡での膜貫通領域の構造解析が、2つのグループから発表された。しかし、その構造情報を、論文が発表されるまえに、入手して、機能解析を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
ビブリオ菌由来のナトリウム駆動型エネルギー変換ユニットであるPomAPomB複合体の構造解析を第一の目標としていたが、昨年、クライオ電子顕微鏡での膜貫通領域の構造解析が発表された。今後、クライオ電子顕微鏡での構造解析を中心に行っていく予定である。種々の変異体を作製することで、完全なPomAPomB複合体の構造を明らかにしたい。膜タンパク質と回転子タンパク質FliGとの相互作用を調べる目的で、界面活性剤存在下でNMR測定しても、相互作用検出可能なシグナルは得られない。そこで、これら膜タンパク質をナノディスクに再構成してNMR測定をすることにした。しかし、AquifexのMotAではナノディスクへの再構成は成功しているが、PomAPomBでは成功していない。界面活性剤や変異体を用いて、再構成を試す必要がある。PomAPomB複合体は、そのままでは膜に挿入されても、イオン透過活性はない。膜貫通領域直後のプラグ領域と呼ばれる部分が蓋をして、無駄なイオンの流れを抑えている。活性化には回転子との相互作用が必要であることを申請者は明らかにしている。回転子を埋め込む為には、まず、MSリングを膜に再構成する必要がある。サルモネラ菌のFliFを大腸菌において大量発現させると、膜中にMSリング構造を形成することが知られている。FliFは約60kDa二回膜貫通タンパク質で、約30分子がリングに重合する。MSリングは複雑な構造をしているのに単一タンパク質FliFから構成されている。大量精製したMSリングとPomAPomB複合体をプロテアリポソームに再構成する。このリポソーム内で、FliGの無細胞タンパク質合成系を動かし、回転子を再構成する。モーターの完全再構成を大きな目標としている。
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