研究課題/領域番号 |
20H03223
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山下 隼人 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (10595440)
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研究分担者 |
林 文夫 神戸大学, 理学研究科, 名誉教授 (80093524)
森垣 憲一 神戸大学, バイオシグナル総合研究センター, 准教授 (10358179)
粟津 暁紀 広島大学, 統合生命科学研究科(理), 准教授 (00448234)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 光受容体 / ロドプシン / GPCR / オリゴマー / シグナル伝達 / 高速原子間力顕微鏡 / バイオイメージング / 1分子動態 |
研究実績の概要 |
本研究では、光受容体ロドプシン(Rh)の光受容に伴う1分子レベルでの構造変化やRhとシグナル伝達分子であるG蛋白質トランスデューシン(Gt)との相互作用動態の変化を高速原子間力顕微鏡(高速AFM)で捉えるため、これらの観察に適した高速AFM装置環境の構築が重要となる。従来のAFMの多くは光てこ光学系に可視光(赤色など)を用いているが、可視光ではAFM観察中にサンプルであるRhの退色が進む可能性がある。そこで我々は暗状態Rhの観察を実現するため、自作の高速AFMに赤外線を用いた光てこ光学系を導入した。また観察前にRhが退色することを防ぐため、高速AFM装置を暗幕環境内に設置し、完全暗所で測定を行える環境の構築を行った。 次に、ウシガエル視細胞円板膜から精製したRhサンプルを基に安定かつ大規模な超分子クラスターを形成するRh試料を調製するための条件検討を行った。我々の予備実験において界面活性剤で精製膜を部分可溶化することで超分子クラスターが形成されることを見出していたが、その混合比を更に微調整し、調製した試料を高速AFMで観察することでクラスター状態の評価を行った。これらを繰り返し、調製方法も試行錯誤した結果、規則的な2量体列構造が数百ナノメートルの領域で形成する様子を高速AFMで観察することができた。 Rhの光受容に伴う構造変化は、主に細胞質側(C末端側)にて顕著に見られることが報告されており、またGtも同様に細胞質側に結合することが知られていることから、これらの分子過程を高速AFMで捉えるには観察されたRhの膜中での配向性が重要となる。そこで前述の超分子構造を観察中に、RhのC末端領域に特異的に結合する抗体を投与した所、たくさんの抗体分子が結合する様子を捉えることに成功した。このようにRhの光受容に伴う構造変化やGtとの相互作用を観察する上での基盤となる成果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で光受容体ロドプシン(Rh)の暗状態からの光に対する応答を高速原子間力顕微鏡(高速AFM)で観察する際に重要な完全暗所環境の顕微鏡測定装置を構築できた。また高速AFMによりRh超分子クラスター上でトランスデューシン(Gt)との相互作用を観察するには、Rh超分子クラスターが広範囲に渡って形成されていることが必要であるが、本研究で試料調製の条件を試行錯誤することにより、比較的規模の大きな2量体列構造を頻度良く観察できるようになった。更に、これらの観察されたRhが構造変化やGt相互作用などのAFMで見たい表面を探針側に向けて配置されていることも確認できた。これらの成果により、今後、Rhの光受容に伴う構造変化やGtとの相互作用の1分子レベルでの観察に繋がると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られた成果をもとに、光照射に伴うロドプシン(Rh)の構造変化の高速AFM測定および解析を行う。また、暗所下で高速AFM観察中にトランスデューシン(Gt)を投与することで、RhとGtとの相互作用の可視化を試みる。更に観察中に光を照射することで、相互作用の動態の変化を解析する。 これらの高速AFM観察では、イメージング中にAFM観察チャンバーへGtの溶液の投与を行うが、これを暗所下で行うのは容易ではない。また今後はGtのみならず、それに続けてGTPなどの投与も行いたい。そこで、これらの投与を安定かつ迅速に行えるようにするため、薬剤を機械的(半自動的)に投与するためのAFMシステムの構築も進める。 また試料調製の面では、上記の測定と並行して、更に高活性な機能を保持したRh分子環境構築を目指して、パターン化膜技術を応用したRh超分子クラスターの形成を試みる。 更に、我々はこれまでにRhの粗視化モデルによる2量体列構造形成過程の分子動力学シミュレーションに成功していることから、前述の実験研究と並行して、今後は結晶構造を基にした数理解析にも取り組むことでGtのRhへの相互作用におけるRh2量体列構造の機能・構造的役割について検証を試みていく。
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