研究課題/領域番号 |
20H03224
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
茶谷 絵理 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (00432493)
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研究分担者 |
大橋 祐美子 神戸大学, 理学研究科, 特別研究員(RPD) (10422669)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 蛋白質 / アミロイド / 中間体 / 準安定 / ミスフォールディング |
研究実績の概要 |
アミロイド線維の核形成は、アミロイドーシスの発症を決定づける重要な初期プロセスであると考えられる。本研究では、核が出現するまでにタンパク質分子がどのように集合し構造変化を経るのかを解明するために、核形成より先に生成する準安定なタンパク質集合構造(核前駆体)を捕らえ、構造特徴、生成プロセス、およびアミロイド核構造への転移の解析を行う。さらに核前駆体を生成するタンパク質が持つ構造やアミノ酸配列の特徴、さらに外部因子により与えられる影響を検討し、核前駆体が生成するために必要な条件や核前駆体が備えるべき構造的特徴を明らかにする。これらを通して疾病が発症する直前のタンパク質分子の動態を総合的に理解することを目的とする。 令和3年度は、インスリンおよびインスリン由来ペプチドの核前駆体の解析の継続、インスリン以外のタンパク質での核前駆体観察の試み、Sup35NMの液滴形成とアミロイド線維形成との関連性の解析を行った。インスリンとインスリン由来ペプチドでは、核前駆体が形成するプロセスについて光散乱、小角X線散乱を中心に経時追跡し、インスリンでは具体的な反応モデルを構築することができた。インスリン由来ペプチドついても、異なる反応経路での核前駆体を観察し、共通性や相違点を整理した。トランスサイレチンペプチド、タウタンパク質、αシヌクレインについては、初期凝集が見られる条件を探索した。Sup35NMについては、液液相分離状態からの凝集体生成を観察し、凝集のしやすさが配列の組成や由来種によって変わることを見つけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インスリンとインスリン由来ペプチドの解析から、核前駆体を経由したアミロイド核形成の存在やその基本骨格を明らかにすることができた。特にインスリンで行ったモデル解析では、単量体からの集合プロセスを具体的に提案できそうである。さらに、Sup35NMで見られた液液相分離状態の性質も、アミロイド核形成への関与を強く示唆する。これまでの解析結果をもとに、今後他のタンパク質の解析に着手すれば、核前駆体を介した核形成機構の理解は大きく進展すると考えている。一方で、核前駆体から線維への転移の仕組みは十分解明できていないため、本格的に取り組む必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果を踏まえながら、今後はインスリン、インスリンペプチド以外の病因性タンパク質、ペプチドに解析対象を拡張する方向性で研究を計画し、核前駆体を経由した核形成機構の実証と理解を深めたいと考えている。現時点では、インスリンで構築したタンパク質分子の集合モデルが他のタンパク質にも適用できる可能性を期待しているので、その検証を進める。このとき、核前駆体からアミロイド線維への転移メカニズムの解明に注力し、新しい解析手法を模索する。また、核前駆体は、アミロイド線維形成の初期段階での阻害ターゲットになり得るため、シャペロンなどの阻害性タンパク質と核前駆体との相互作用性および結合様式も検討する。Sup35NMで見られる液液相分離状態から凝集開始する現象も生体内でのアミロイド核形成に関わるため、観察を進める。
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