研究課題/領域番号 |
20H03229
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
神谷 成敏 兵庫県立大学, 情報科学研究科, 特任教授 (80420462)
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研究分担者 |
織田 昌幸 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (20318231)
伊藤 暢聡 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 教授 (40361703)
Bekker Gerardu 大阪大学, 蛋白質研究所, 特任助教(常勤) (80813758)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 分子動力学シミュレーション / 構造予測 / 親和性予測 |
研究実績の概要 |
多くの欧米人が持つヒトMajor Histocompatibility Complex (MHC)としてHLAアリル(A*0201)に関して、腫瘍細胞抗原で様々な癌に見られるNY-ESO-1のペプチド断片のアミノ酸配列(SLLMWITQC)との2者複合体とT細胞受容体との3者複合体の構造予測をマルチカノニカル分子動力学法により行った。得られた自由エネルギー地形上には、32個の安定構造が存在し、これらの構造は地形上に幅広く分布していることから、T細胞受容体は非特異的にHLAを認識していると解釈できる。自由エネルギー最小点は、実験構造に近いことが示され、更に自由エネルギー最安定構造が63 %の天然構造が持つコンタクトを再現することができ、結合構造予測に成功した。 これまで得られているデータの少ない、多くの日本人が多く持つMHCとしてHLAアリル(A*2402)に関して、2者複合体の複合体構造や親和性の予測を行った。まず、唯一構造が報告されているHIVのペプチド(RYPLTFGWCF)とMHCに対してマルチカノニカル分子動力学法による複合体構造予測を実施し、得られた結果を既知構造(Protein data bank ID: 3VXN)と比較した。得られた自由エネルギー地形上には12個の安定構造が存在し、二番目に安定な構造が3VXN構造に一致し、実験構造の予測・再現に成功した。次に、実験結果未知の癌ワクチンペプチドであるWilms’ tumor gene 1 ペプチド(WT1ペプチド、CYTWNQMNL)との2者複合体の予測を行い、複合体構造を得た。また、結合実験や結晶構造解析を行い、HLAがフォールドすることを確認し、熱安定性を測定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HLA-A*0201とペプチドの2者複合体に対するT細胞受容体(TCR)の3者複合体の構造予測が完了した。このドッキングは、従来法では困難なタンパク質-タンパク質ドッキングであり、このような難しい系においても予測に成功し、良好な結果を得ることができた。昨年度に成功したHLA-A*0201とペプチドの2者複合体の構造予測に加えて、HLA-A*2402と複数のペプチドの2者複合体の構造予測についても成功し、マルチカノニカル分子動力学法による高精度な2者複合体予測法が完成した。
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今後の研究の推進方策 |
多くの欧米人がMHCとして持つHLAアリル(A*0201)に比べてこれまで得られているデータの少ない、多くの日本人が多く持つHLAアリル(A*2402)に関して、MHC-癌ワクチンペプチド-TCRの3者複合体の複合体構造や親和性の予測を行う。MHCの構造として、HIVペプチドが結合した3VXN構造のタンパク質部分を、癌ワクチンペプチドとして、WT1ペプチドを用いる。なお、この2者複合体については、本年度に予測した構造を利用する。TCRとしては、この2者複合体と強い親和性を持つB10-TCRを用いる。TCRの構造はアミノ酸配列の近い構造既知のTCRをテンプレートとしたホモロジーモデリングにより得る。 上記に加えて、B10-TCRとはCDRループのアミノ酸配列が異なる、29 nMから1.8 μMの親和性をもつ3種類のTCRについて、これらの親和性をTCRの構造モデリングとrefinement MD + Thermodynamic Integration (TI) MDを適用することで、効率的に3者複合体の複合体構造や親和性を予測する方法を開発する。 同時に、結合実験や結晶構造解析を行い、得られた結果と計算との比較・方法論の改良をすることで計算の予測精度を向上させる。 予測は申請者らが開発した方法で行う。本方法は、分子動力学シミュレーションに基づき、(i)構造探索効率の高いマルチカノニカル法で結合構造と結合経路を探索し、(ii)TI法で結合経路に沿った結合自由エネルギーから親和性を計算する。なお、T細胞受容体との3者複合体予測においては構造自由度が高く困難なタンパク質-タンパク質のMDシミュレーションが必要で、これを可能にするための改良を行う。
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