研究実績の概要 |
多くの日本人が多く持ち、これまで得られている親和性や立体構造データの少ない、Major Histocompatibility Complex (MHC)であるHLAアリル(A*24:02)に関して、2者複合体(HLA, ペプチド)に対して、X線結晶構造解析やiso thermal calorimetryによる親和性の測定を行った。なお、ペプチドとして、ほとんどの固形癌で発現するタンパク質であるWilms’ tumor gene 1由来の ペプチド(WT1ペプチド、CMTWNQMNL)の変異体(modified WT1, mWT1ペプチド、CYTWNQMNL)を用いた。2者複合体の親和性測定だけでなく、立体構造解析にも成功し、Protein Data BankにPDB ID=8ISNとして構造データを登録した。ここで得られた実験結果を昨年度得られた分子動力学(MD)シミュレーションによる予測結果と比較したところ、自由エネルギーを評価関数として得た最安定構造が実験構造と良い一致を示し(84.5 %のアミノ酸残基間コンタクトを再現)、計算結果の妥当性を確認することができた。親和性においては、わずかに実験値を過大評価したものの、実験ではHLAの安定性が低いために2者複合体のポピュレーションが低いと解釈できた。次に、3者複合体(HLA, ペプチド, T細胞受容体)に対して、マルチカノニカルMDシミュレーションによる複合体構造予測を行った。なお、T細胞受容体としてTM-H2を用いた。常温におけるカノニカルアンサンブルを解析し、5種類の自由エネルギー安定構造を得た。これらの安定性を評価するために、我々が開発した高温のMD計算とアミノ酸残基間コンタクトを解析する方法を適用した。結果として、予測構造の中に安定な構造が含まれることが明らかになり、3者複合体の予測に成功した。
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