研究課題/領域番号 |
20H03231
|
研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
横山 謙 京都産業大学, 生命科学部, 教授 (70271377)
|
研究分担者 |
光岡 薫 大阪大学, 超高圧電子顕微鏡センター, 教授 (60301230)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | V-ATPase / 回転分子モーター / ATP synthase / クライオ電子顕微鏡 / 単粒子解析 / bioenergetics |
研究実績の概要 |
V型ATPase (V-ATPase) は、膜横断的なプロトン移動と、ATPの合成もしくは分解をエネルギー共役させる回転分子モータータンパク質である。生化学および1分子回転観察により、V-ATPase の分子機構に対する理解は進んだが、回転している最中の構造情報は十分でない。クライオ EM による単粒子解析は、結晶化条件に拘束されることなく、そのため V-ATPase が働いている様々な溶液条件での構造を得ることを可能とする。さらに構造のクラス分けにより、同じ溶液条件で取りうる複数構造を決定することもできる。飽和ATP濃度条件、加水分解が遅くなる条件、ATP 濃度を低くした ATP 結合待ち条件で凍結グリッドを作成し、ATP 結合待ち、ATP 加水分解待ち、ADP およびリン酸解離待ち、等の構造を決定し、触媒サイクルと構造変化の対応付けをすることで、回転触媒機構による ATP合成反応の全容を明らかにする。 今年度は、反応中でなく、酵素基質である ATPがない状態での構造、および飽和 ATP濃度条件での構造解析を行った。ATPがない状態での構造とATPがある状態の構造を比較すると、ほぼ同じで、ヌクレオチドのありなしで V-ATPaseの構造が変化しないことがわかった。このことは V-ATPaseの構造の強固性を示す。 ATP飽和条件での構造では、3つの触媒サイトすべてに ATPと思われる密度が観察された。すべての ATP結合部位にATPが存在することは、この構造が 120度回転前の状態であることを示す。すなわち ATPが結合するとともに軸の回転が起こるという以前の仮説に従わない結果となった。触媒部位に結合した密度が ATPかADP+Piかは、もう少し分解能を向上させた構造から判断する必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クライオ電顕による構造解析は、解析に適した試料の調製とクライオグリッドの作成がポイントとなる。ナノディスクに V-ATPase を再構成することで、界面活性剤なしで可溶化することが可能になり、安定した氷厚からなるグリッド作成が可能になる。ナノディスクへの再構成条件を検討することで、単分散性の高いナノディスクで可溶化された V-ATPase を作成することができた。この試料をつかってクライオグリッドを作成したが、数回のトライアルで十分な撮影面積を有するグリッドを作成する条件がだいたいわかった。以後この条件でクライオグリッドの作成を進めた。試料調製において、ADPが結合しているとADP阻害という不活性型になり、動作中の V-ATPaseの構造を捉えることにならない。そこで、リン酸緩衝液に対して透析することでADPを除き、活性型の酵素を得ることができた。まずこの状態での V-ATPaseをナノディスクに再構成し、クライオグリッドを作成し、クライオ電子顕微鏡 Titan Krios で撮影した。今回、1電子検出が可能で、低角から高角まで高い量子検出効率を示す K3 summit (Gatan 社製)を備え、シリアルEM によるマルチショット撮影が可能な機種を使用した。これにより、従来の15倍以上の速さで(1日で6000枚程度)、より質の良い電顕画像を得ることができた。さらに、活性型の V-ATPaseに ATPを加え、回転中の V-ATPase試料からクライオグリッドを作成し、撮影した。撮影した電顕画像を画像解析プログラムで解析し、複数の三次元構造を得た。現在得られた構造からモデリングを進めている。途中ではあるが、ATP飽和条件では、3つの触媒サイトすべてに ATPらしき密度が観察された。この結果は、ATPが結合してもすぐに回転しないことを示唆する。
|
今後の研究の推進方策 |
タンパク質の構造解析でもっとも重要な、試料調製およびクライオグリッドの作成の条件出しがだいたい終わったので、今後、ATP結合待ち条件、 加水分解が遅くなる ATPアナログを使った条件でのグリッド作成と撮影を進める。ただし、マルチショット撮影をする場合、撮影に適した面積が広いほうが効率よく良い電顕画像を得ることができる。クライオグリッド作成は、手作業の部分が多く再現性が乏しい。良いグリッドができるまで粘り強く実験を進める必要がある。 一方で、大量撮影は、解析時間の増大という問題を招いている。マルチショットにより、以前の10倍以上の電顕画像が得られる。また、より高分解能の構造を得るために、ピクセル数も小さくしている。そのため、画像のデータが大きくなり、解析に時間がかかるようになった。効率よく解析を進める必要があり、そのために解析ソフトの更新、より効率のよい解析ソフトの導入が必要とされる。具体的には解析ソフト RELION のバージョンを上げる、単粒子の抽出に AIを取り入れたソフトを使用する、CRYOSPARC などの解析ソフトの組入などを行う。単粒子解析は、まだ確立された方法がなく、解析法は様々なやり方が考えられる。最新の情報を取り入れ、最速で最善の解析により効率よく構造解析を進める。計算資源の増強も含め解析法の改善が必要である。
|