研究課題/領域番号 |
20H03232
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
藤原 悟 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学研究所, 専門業務員 (10354888)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 天然変性蛋白質 / シヌクレイン / パーキンソン病 / 中性子散乱 / X線小角散乱 / 蛋白質重水素化 |
研究実績の概要 |
本研究では、パーキンソン病発症と深く関係する蛋白質α-シヌクレイン(αSyn)のアミロイド線維形成の分子機構解明を目指し、アミロイド線維のなりやすさが異なる様々な条件下でのαSynのふるまいを明らかにすることを目指している。研究成功のためには、試料調製技術の高度化、即ち中性子散乱において決定的に重要な蛋白質重水素化技術の高度化並びに高収率での蛋白質精製法の確立が不可欠である。蛋白質重水素化については初年度に行った重水素化緑藻ペプトン調製法の確立に続き、蛋白質発現を行う大腸菌の重水培地への適応法なども含めた重水素化法を検討し、その方法を確立した。また、大腸菌中で発現された蛋白質精製法の検討を行い、高純度かつ高収率で蛋白質精製可能な方法も確立した。これは次年度から開始する本格的な中性子散乱実験の実施を可能とする重要な成果である。 一方、αSynは様々な阻害剤の結合や蛋白質へのアミノ酸変異の導入が、線維形成に影響を与えることが知られている。阻害剤や変異によりαSynのふるまいがどのように変化するかを明らかにすることは、線維形成機構解明の上で不可欠である。本研究では、小角散乱と中性子準弾性散乱を併用して、αSynの構造及びダイナミクスを明らかにする。本年度は、初年度に行った種々の阻害剤結合下におけるαSynの構造並びに、パーキンソン病関連のαSyn変異体のX線小角散乱測定の再現性確認の実験を行い、様々な阻害剤結合により異なった構造変化が起こること、また、様々な変異の導入によっても異なった構造変化が起こることを確認した。これは今後の解析の基礎となる重要な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究成功のためには、基盤技術である蛋白質重水素化技術の高度化並びに効率的な試料調製法の確立が、本質的に重要である。本年度までの研究でこれらの基盤技術確立に成功したことは、今後の研究の順調な進展につながる。また、阻害剤や変異体導入などによるαSynの構造変化を検出したことは、この変化の実態を明らかにすることで線維形成機構解明に迫れる可能性を示すものであり、本研究の重要性を示すとともに、今後の解析の基盤となる。このように、今後の研究進捗の基盤となる成果が得られたので、研究は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに確立した重水素化技術並びに蛋白質精製法を用いて、本研究において目的とする実験、即ち特定のアミノ酸残基を軽水素化した重水素化蛋白質の中性子小角散乱(SANS)及び中性子準弾性散乱(QENS)実験を本格的に開始する。αSynは3つの構造領域を持ち、アミノ酸残基の分布は、それぞれの領域で偏りを持つ。従って、様々なアミノ酸残基を軽水素化した重水素化αSynを調製し、それらに対してSANS及びQENS実験を実施し、統一的に解析することで、構造領域を区別しうる詳細な構造分布及びそれぞれの領域のダイナミクス情報を取得することが可能となる。こうした実験を通して、アミロイド線維のなりやすさが異なる様々な条件下でのαSynのふるまいを明らかにすることを目指す。
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