本研究は、パーキンソン病発症と深く関係する蛋白質α-シヌクレイン(αSyn)のアミロイド線維形成の分子機構解明を目指し、線維のなりやすさが異なる様々な条件下でのαSynのふるまいを明らかにすることを目的としている。そのために、小角散乱と中性子準弾性散乱を用いて、αSynの構造及びダイナミクスを明らかにする。特に、線維化において独自の役割を果たすといわれるαSynの3つの領域(N末端領域、NAC領域、C末端領域)のそれぞれのふるまいを明らかにする。そのためには、特定アミノ酸残基のみを「軽水素化」した重水素化蛋白質調製という重水素化技術高度化が必須である。この技術により、それぞれの領域を軽水素ラベルした重水素化αSynが得られる。 昨年度までに重水素化法及び高収率の蛋白質精製法を確立した。昨年度に、αSyn野生体について、軽水素ラベルした重水素化試料の中性子準弾性散乱実験を行い、それぞれの領域で、ダイナミクスが異なることを明らかにした。本年度は、これらの重水素化試料の中性子小角散乱実験を行った。その結果、異なったラベル毎に小角散乱曲線が異なることが明らかになった。これは、得られた散乱曲線を統一的に解析することで、αSynの構造分布を詳細に明らかにできることを示す。また、線維の成りやすさの異なった条件では散乱曲線が異なることが示された。これは条件の違いによる構造分布の変化から、線維化のカギとなる構造を特定できることを示唆する。さらに、線維化過程が野生体と異なる変異体の重水素化試料を調製し、それらの中性子準弾性散乱実験を行った。その結果、野生体とダイナミクスが異なることが明らかになった。野生体の結果と比較することで、線維化のカギとなるダイナミクスを特定することができる。このように、本年度で目的の実験はすべて実施された。現在、得られたデータの解析と共に、成果発表の準備中である。
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