研究課題
我々が独自に開発した大腸菌染色体複製のサイクルを再構成した複製サイクル再構成系では、ゲノムサイズの環状DNA分子の指数的な増幅が達成される。大腸菌をモデルとした研究では、複製系以外にも転写・翻訳、DNA修復、組換え、複製周期制御など、ゲノムにまつわる多くのシステムが試験管内再構成されている。そこで本研究ではこれらシステムを複製サイクル再構成系に融合し、ゲノム動態の統合的な再現を目指した。またシステムだけでなくゲノム(染色体)自体を試験管内に取り出しての検討も進めた。染色体複製サイクル再構成系に転写再構成系を融合し、同じミニ染色体上で、複製反応、転写反応が相互に及ぼす影響について解析を進めた。その結果、同一鋳型DNA上での転写が複製反応に阻害的であるという現象を見出した。そこで転写と複製の衝突を回避するためのいくつかの機構について試験管内再構成系に融合して検討し、転写と複製が同一の反応系において効率よく進行する条件を見出した。また、染色体複製サイクル再構成系にDNAメチル化を解した複製開始制御機構についても融合することに成功した。その中で興味深い現象が見出されたので、更なる解析を進めている。さらに、染色体自体を試験管内に取り出して生化学的解析に用いる実験に対しては、染色体を大腸菌からスーパーコイルDNAとして壊さずに精製する技術を構築した。通常の大腸菌ゲノムはサイズが大きく壊さずに精製することが難しいが、我々は染色体を細胞内で分断する技術を独自に開発し、1Mbや2Mbの分断染色体を精製し、さらにその分断染色体について、染色体複製サイクル再構成系を用いて環状スーパーコイルDNAとして試験管内増幅することに成功した。試験管内で染色体丸ごとを壊さずに増幅できたという点は画期的であり、大きな成果である。
1: 当初の計画以上に進展している
複製サイクル再構成系への転写反応の融合においては、複製と転写の衝突を回避する機構についてのin vitroでの検証を実施することに成功し、in vivoで示唆されていたいくつかの機構が実際に効果あることを実証するに至った。また、それによって効率よく複製と転写の融合系を駆動させることができるようになった。複製サイクル再構成系への制御系の組み込みにも成功し、DNAメチル化を介した複製開始制御機構の存在が、反応系の振る舞いに興味深い影響を与えることを発見し、更なる解析を進めている。さらに、染色体を試験管内に取り出して解析するアプローチにおいては、2Mbまでの分断染色体について環状構造を保ったまま壊さずに試験管内で複製サイクル増幅できることを示すことができ、こちらも画期的な成果であると言える。
複製と転写の融合系に関しては、今後、翻訳反応についても融合を検討し、転写、翻訳された複製タンパク質によって鋳型DNAの複製が導かれる「ゲノム自己複製系」の検討を進める。複製サイクル再構成系への制御系の組み込みに関しては、複製開始のネガティブフィードバック制御を介したしたサイクルの周期性のようなものが実装されている可能性があり、リアルタイム検出系を用いてその周期性の変動について検出を試みたい。2Mbまでの分断染色体については細胞内から壊さずに取り出し、環状のまま丸ごと増幅できるようになった。一方で、分断していない天然染色体丸ごと(縮小ゲノム株3Mb)の増幅にはまだ至っておらず、その原因を探り解決することで、ゲノム丸ごと試験管内増幅というインパクトを達成したい。最終的に、以上の系を全てを一つの反応系として融合することで、細胞内で起きているゲノム動態の基本的な部分を試験管内で再現できるようにすることが目標である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (12件) (うち招待講演 4件) 備考 (1件)
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