研究実績の概要 |
皮質脊髄路は随意運動を担う神経回路で、中枢神経系の中で最も長い軸索を有する。遺伝性痙性対麻痺(HSP)は、皮質脊髄路の運動神経が損傷する軸索変性症である。その主な原因として近年、ERと後期エンドソーム(LE)間の膜接触部位(MCS)の関連が示唆されている。近年MCS研究は急速に進展しているが、その個体における生理機能には未知の部分が多い。そこで本研究で、ER膜構造とER-LE MCSが、神経細胞の恒常性維持にどのように関与しているのか明らかにし、軸索変性の発症機構の解明に繋げることを目標とした。ER-LE MCSの繋留複合体をマウス脳や神経細胞のプロテオミクスによって解析し、Protrudin、PDZD8、VAP、Rab7などを同定した。これらの因子はそれぞれ、知的障害 (ID)、HSP、ALS、CMTなどのヒトの脳神経系疾患との関連が知られているため、この複合体は脳神経系で重要な働きをしていると示唆された。特にPDZD8は、ヒトのID家系で遺伝子変異が知られている。われわれはPDZD8がER-LE MCSにおいて脂質輸送を促進すること、SMPドメインを介してリン脂質のPSやコレステロールを輸送し、その結果エンドソーム成熟を促進させ、神経細胞の健常性維持に働くことを明らかにした(Shirane, et al, Nat Commun (2020))。またアルツハイマー病などの神経変性疾患において脂質蓄積の関連が示唆されている。われわれはPDZD8欠損マウスの脳でリピドーム解析を行い、コレステロールエステル(CE)が異常蓄積していることを発見した。そしてその原因機構としてリポファジー(脂肪滴のオートファジー)の不全を見いだし、PDZD8が脳内CEのクリアランスを介して脳機能の維持に寄与していることを明らかにした(Morita, et al, iScience (2022))。
|