研究課題/領域番号 |
20H03257
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
岡 敏彦 立教大学, 理学部, 教授 (40263321)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
ミトコンドリアは多彩な細胞機能を担っており,その機能は細胞により様々な調節を受けている。特に,オートファジーを介した障害を受けたミトコンドリアの排斥は,ミトコンドリア品質管理として,近年,その詳細な分子メカニズムが明らかになってきた。私達は,PINK1/Parkinを介したミトコンドリアの品質管理が,cAMP/PKA経路によるリン酸化修飾で調節されることを証明した。これにより,様々なミトコンドリア外のシグナル経路が品質管理を調節する可能性が示された。本研究では,ミトコンドリア外シグナルによるミトコンドリア品質管理調節機構の分子メカニズムの全体像の理解を目指す。令和2年度は,次の2点について研究を進めた。 1.低酸素条件下におけるParkinのミトコンドリア標的化の亢進が,ミトコンドリア外膜上でのユビキチン化タンパク質の増加に起因していると推定されたため,通常条件で培養する細胞にユビキチン1分子を融合したミトコンドリア外膜局在モデルタンパク質を発現させたところ,ユビキチン化タンパク質の増加に応じたParkinのミトコンドリア標的化が観察された。この結果は,ミトコンドリア外膜上に存在するユビキチン分子が律速となることを示している。 2.ストレスホルモンを介したミトコンドリア品質管理の抑制機構を解明するため,dexamethasone添加により量的変化を示すタンパク質を,既知のPINK1結合タンパク質の中からウエスタンブロット解析により検索したが,有意な変動を示す候補因子はまだ見出せていない。dexamethasone添加の有無によるトランスクリプトーム解析についても引き続き行い,ストレスホルモンを介した抑制機構の解明を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.低酸素条件下におけるParkinのミトコンドリア標的化の亢進は,ユビキチンリガーゼの関与を鑑みると,ミトコンドリア外膜上でのユビキチン化タンパク質の増加が原因であると推定された。そこで,ミトコンドリア外膜局在モデルタンパク質にユビキチン1分子を融合したモデル基質を通常条件で培養する細胞に発現させ,低いCCCP濃度でのParkin標的化を検討したところ,促進的効果が確認できたため,ミトコンドリア外膜上に存在するユビキチン分子の量が律速であるという考えをさらに強くした。 2.グルココルチコイド受容体による転写制御を受けるミトコンドリアタンパク質を検索するために,dexamethasone添加の有無によるトランスクリプトーム解析を試みる予定であったが,解析を依頼する外注先がコロナ禍で十分に機能できず,十分な解析は進んでいない。 また,既知のPINK1結合タンパク質のウエスタンブロット解析では,dexamethasone添加により量的変化を示す候補タンパク質はまだ見出せていない。
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今後の研究の推進方策 |
1.全ユビキチン量に対するミトコンドリア上のユビキチン分子は非常に少量であり,そのユビキチン分子の量的な変動を,蛍光抗体法などの従来の方法を用いて捉えることは難しい。しかし,ミトコンドリア外膜上でのユビキチン化亢進を確定するためには,定量的な解析が不可欠である。今後は,様々な条件で培養した細胞より,代表的なユビキチン化膜タンク質 (VDAC, MFN2など)を可溶化・免疫沈降し,そのユビキチン化をウエスタンブロットやLC/MS解析により定量化する。また,特異的抗体を用いたウエスタンブロットにより,低酸素に応答して量的変化を示すユビキチンリガーゼ・脱ユビキチン化酵素を引き続き検索する。 2.dexamethasone添加の有無によるトランスクリプトーム解析を引き続き行い,グルココルチコイド受容体による転写制御されるミトコンドリアタンパク質の検索を進める。解析により見出した変動の大きな候補因子については,発現量変化をウエスタンブロットで評価する。
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