研究実績の概要 |
ミトコンドリアは多彩な細胞機能を担っており,その機能は細胞により様々な調節を受けている。特に,オートファジーを介した障害を受けたミトコンドリアの排斥は,ミトコンドリア品質管理として,近年,その詳細な分子メカニズムが明らかになってきた。私達は,PINK1/Parkinを介したミトコンドリアの品質管理が,cAMP/PKA経路によるリン酸化修飾で調節されることを証明した。これにより,様々なミトコンドリア外のシグナル経路が品質管理を調節する可能性が示された。本研究では,ミトコンドリア外シグナルによるミトコンドリア品質管理調節機構の分子メカニズムの全体像の理解を目指す。令和3年度は,次の2点について研究を進めた。 1.ミトコンドリア外膜上におけるヘキソキナーゼの機能を解析するために,3種類のアイソフォーム(HK1, HK2, HK4)を用いて,その酵素活性と細胞内局在の関連性を蛍光抗体法により解析した結果,HK1はミトコンドリアに,HK4は細胞質に,HK2はミトコンドリアと細胞質に局在することが明らかとなった。さらに,酵素活性を失ったHK2変異体は,ミトコンドリア局在を示さなかったことから,酵素活性に依存したミトコンドリアへの標的化機構が示唆された。 2.ヘキソキナーゼアイソフォームHK2のタンパク質複合体の形成に関わる因子を検索するために,ミトコンドリアの脱分極に依存してヘキソキナーゼに結合するタンパク質の同定を試みたが,まだ特異的なタンパク室の同定には至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.ヒトには4種類のヘキソキナーゼアイソフォーム(HK1, HK2, HK3, HK4)をコードする遺伝子が存在する。これまでの研究から,ヘキソキナーゼはアイソフォームごとに細胞内局在が異なることが報告されている。ヘキソキナーゼは解糖系の初発酵素として知られているが,私達はミトコンドリアの品質管理に働くことをすでに見出している。そこで,ミトコンドリア外膜上におけるヘキソキナーゼの機能を解析するために,3種類のアイソフォーム(HK1, HK2, HK4)を用いて,その酵素活性と細胞内局在の関連性を蛍光抗体法により解析した。その結果,HK1はミトコンドリアに,HK4は細胞質に,HK2はミトコンドリアと細胞質に局在することが明らかとなった。さらに,HK2の2つの酵素活性部位に変異を導入した変異体では,ミトコンドリア局在が失われたことから,酵素活性に依存したミトコンドリアへの標的化機構が示唆された。 2.障害を受けたミトコンドリアの外膜上で,HK2はPINK1と共にタンパク質複合体を形成するだけでなく,HK2自身も異なる大きさのタンパク質複合体を形成できる。HK2のタンパク質複合体の形成に関わる因子を検索するために,脱分極剤依存にヘキソキナーゼに結合するタンパク質の同定を試みたが,特異的な因子を見出すことは出来ていない。これは,多くのHK2は細胞質に存在するため,HK2とミトコンドリア外膜上で特異的に結合するタンパク質は相対的に微量になると考えられ,その検出が難しくなることが理由の一つと推定される。
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