研究課題/領域番号 |
20H03265
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
石黒 啓一郎 熊本大学, 発生医学研究所, 教授 (30508114)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 減数分裂 / 生殖細胞 / RB / 性差 |
研究実績の概要 |
本研究は減数第一分裂の細胞周期制御機構の解明を目的とする。減数第一分裂は通常の体細胞と同様の細胞周期の機構を巧みに転用しながらも、減数分裂仕様にプログラムされている。体細胞分裂から減数分裂への切替えが何によって制御されているのかという問題は、生物種を問わず長年の懸案とされていた。最近申請者らは、体細胞分裂から減数分裂の切替えに決定的な役割を担う新規のマスター転写因子MEIOSINを同定した。本申研究では、①減数第一分裂前期に関わる新規因子の解析、②STAR8-Rb相互作用の減数分裂における役割の解明、(3)減数第一分裂前期の雌雄性差の解析について、3つ角度から検討を行って体細胞分裂と減数分裂のとの違いを本質的に決定付けるメカニズムの解明を目指す。 STAR8会合因子のMS解析から、STAR8結合因子の相互作用因子としてRb/p107が結合することが判明した。興味深いことにSTAR8タンパク質にはRbファミリーの結合コンセンサスモチーフLxCxE配列がある。研究代表者はSTAR8タンパク質中のLxCxE配列に変異を導入した変異型Stra8発現マウスを作製した。この変異型Stra8発現マウスでは、STAR8はMEIOSINへの結合はできるもののRb/p107に結合できなくなることを確認した。さらに、LxCxEモチーフ変異型Stra8マウスの予備解析から、homozygous♀では早期に卵胞の枯渇を示すことが判明した。したがって減数分裂の開始制御には雌雄性差があることが示唆された。本研究ではさらに♀の減数分裂の開始期におけるSTAR8-Rb相互作用の生理的意義についてscRNA-seqでSTAR8発現細胞の遺伝子発現パターンについて検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究代表者はSTAR8タンパク質中のLxCxE配列に変異を導入した変異型Stra8遺伝子をノックインさせたマウスを作製した。この変異型Stra8発現マウスは内在性Stra8プロモーターから発現する際に、GFPも発現するように設計した。IP実験によりLxCxE配列に変異を導入したSTAR8タンパク質はMEIOSINとの結合はintactであるものの、Rb/p107に結合できなくなることが判明した。また変異型Stra8発現マウスはオスの精巣では正常に精子が形成されるものの、メスでは早期に卵胞の枯渇を示すことが判明した。したがって減数分裂の開始制御には雌雄性差があることが示唆された。出生後すぐの卵巣をみると原始卵胞の数が早期に減少していることから、卵子がドーマント状態を保てずに早期に活性化してしまっていることが推定された。STAR8タンパク質は胎生期14日頃に一過的に卵巣内で発現する。そこで、LxCxE変異型Stra8発現マウスの胎生期14日卵巣より、GFP陽性細胞を分離してscRNA-seqでSTAR8発現細胞の遺伝子発現パターンについて検討した。その結果、G1/Sへの遷移が遅延していることや減数分裂関連遺伝子の発現の低下が見られた。
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今後の研究の推進方策 |
LxCxE変異型Stra8発現マウスの胎生期14日卵巣より、GFP陽性細胞を分離してscRNA-seqでSTAR8発現細胞の遺伝子発現パターンの検討から、G1/Sへの遷移が遅延していることや減数分裂関連遺伝子の発現の低下が見られた。これらの結果からSTAR8とRbとの相互作用がG1/Sへの遷移と減数分裂関連遺伝子の活性化とを協調していることが推測されるが、STAR8とRbがどのような機構でこの2つのプロセスを制御しているかについての詰めの解析が必要となる。このためLxCxE変異型Stra8発現マウスの胎生期15日 16日のscRNA-seqデータや、STAR8 KOマウスのコントロールを用いたscRNA-seqデータとの比較を行う。またLxCxE変異型Stra8発現マウスの卵子がドーマント状態を保てずに早期に活性化してしまっていることについて、キーとなる遺伝子の発現状態について検討する。
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