研究課題
最近我々は、体細胞分裂から減数分裂の切替えに決定的な役割を担う新規のマスター転写因子MEIOSINを同定した。本研究では、①減数第一分裂前期に関わる新規因子の解析、②STAR8-Rb相互作用の減数分裂における役割の解明、(3)減数第一分裂前期の雌雄性差の解析について、3つ角度から検討を行って減数第一分裂の細胞周期制御機構の解明を目的とする。我々はSTAR8会合因子のMS解析から、STAR8結合因子の相互作用因子としてRb/p107が結合することを見いだしていた。STAR8タンパク質にはRbファミリーの結合コンセンサスモチーフLxCxE配列がある。研究代表者はSTAR8タンパク質中のLxCxE配列に変異を導入した変異型Stra8発現マウスを作製して、STAR8とRbとの相互作用を遮断した生殖細胞の減数分裂の開始時期におけるscRNA-seqでSTAR8発現細胞の遺伝子発現パターンについて詳細な検討を行った。その結果、LxCxE変異型Stra8発現マウスの生殖細胞では、減数分裂関連遺伝子の発現の低下が見られることや、STAR8-null生殖細胞では多能性状態から脱出できずに分化が阻害されていることが判明した。また、STAR8はTF IIDサブユニットのTAF7likeと相互作用することを見いだした。STAR8がどのように生殖細胞での転写活性化に寄与するのか分子的メカニズムの解明を目指して、本研究ではTAF7likeの減数分裂の開始における転写の制御機構について検討を行った。さらに、STAR8タンパク質にみられるHLHドメインやGluリピート領域、MEIOSINにみられるHLHドメインの生物学的役割について検討を行った。
2: おおむね順調に進展している
研究代表者はSTAR8タンパク質中のLxCxE配列に変異を導入した変異型Stra8遺伝子をノックインさせたマウスを作製した。この変異型Stra8発現マウスは内在性Stra8プロモーターから発現する際に、GFPも発現するように設計されている。またSTAR8-nullでGFP が発現するコントロールマウスも作成して、比較検討を行った。この変異型Stra8発現マウスでは、STAR8はMEIOSINへの結合はできるもののRb/p107に結合できなくなることを確認した。さらに、LxCxEモチーフ変異型Stra8マウスの解析から、オスでは顕著な表現型はみられないもののhomozygousメスでは早期に卵胞の枯渇を示すことを確認した。さらに♀の減数分裂の開始期におけるSTAR8-Rb相互作用の生理的意義についてscRNA-seqでSTAR8発現細胞の遺伝子発現パターンについて詳細な検討を行った。LxCxE変異型Stra8発現マウスの胎生期14日卵巣より、GFP陽性細胞を分離してscRNA-seqでSTAR8発現細胞の遺伝子発現パターンの検討を行ったところ、減数分裂関連遺伝子の発現の低下が見られた。さらにSTAR8-null生殖細胞では多能性状態から脱出できずに分化が阻害されていることが判明した。またTAF7likeのノックアウトマウス、HLHドメインやGluリピート領域を欠失させた変異型Stra8発現マウス、HLHドメインを欠失させた変異型Meiosin発現マウスの作製を行った。
これらの結果からSTAR8とRbとの相互作用がG1/Sへの遷移と減数分裂関連遺伝子の活性化とを協調していることが推測されるが、STAR8とRbがどのような機構でこの2つのプロセスを制御しているかについての詰めの解析が必要となる。このためLxCxE変異型Stra8発現マウスの胎生期15日 16日のscRNA-seqデータや、減数第一分裂前期の染色体動態についての比較検討を引き続き行う。またLxCxE変異型Stra8発現マウスの卵子がドーマント状態を保てずに早期に活性化してしまっていることについて、キーとなる遺伝子の発現状態についてscRNA-seqを用いて検討する必要がある。TAF7like は減数分裂期に特異的に発現していることが示唆されたが、今後TAF7likeのノックアウトマウスでの表現型解析やTAF7likeのノックアウト生殖細胞でのSTRA8 chip-seq解析を行う。HLHドメインを欠失させた変異型Meiosin発現マウスの解析からは、HLHドメインがMEIOSIN-STRA8相互作用に必須の役割を果たしていることを見いだしたが、今後はHLHドメインやGluリピート領域を欠失させた変異型Stra8発現マウスでの詳細な解析を行う。
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