研究課題/領域番号 |
20H03272
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
上口 美弥子 (田中美弥子) 名古屋大学, 生物機能開発利用研究センター, 教授 (70377795)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | オーキシン / ジベレリン / 輸送体 |
研究実績の概要 |
これまでに申請者らは、植物ホルモンの一つであるジベレリンの代謝酵素イネGA2酸化酵素(OsGA2ox3) の構造解析及び分子動力学的解析(MD) シミュレーションにより、GA2ox3が可逆的にジベレリン濃度依存的な多量体形成とそれに伴う活性増大化を引き起こし、ホルモン量を調整していることを見出した。このような調節は、古くは、モノーのアロステリック酵素として提唱されていた概念であるが、そのシステムが成長に関わる植物ホルモンの代謝系に働いていることと、その分子メカニズムを新たに提示できたことを意味する。そこで本申請では、別の成長ホルモンであるオーキシン(IAA) の代謝酵素にも同様のアロステリック制御があるのかどうかについて検証を試みた。 まず、イネのオーキシン代謝酵素(OsDAO)と基質であるIAAとの共結晶構造解析を進めた結果、全体構造は基質を介した2量体構造をとっている事が分かった。さらに、OsGA2ox3においてサブユニット間のジベレリンと結合し、アロステリックな反応に必須であるリジン残基に対応する塩基性アミノ酸がこの調節に関わっているのかどうかをin vitro(酵素活性や構造解析)およびin planta (BiFC解析)を用いて検証した。その結果、OsDAOにもジベレリン不活化酵素と同様の基質依存的な構造変化及び活性の上昇が見られたことから、植物にはホルモン量を調整する共通のシステムが存在することが示唆された。 また、今まで明らかとなっていなかったイネにおけるジベレリン輸送についてin vitro(Y2Hや発現解析)およびin planta (形質転換体イネを用いた形質調査)で検証し、糖輸送体であるSWEETタンパク質の一つであるSWEET3aがグルコースとともにジベレリンを輸送し、イネの初期成長を促進することを初めて明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在のところ、イネゲノムからDAO遺伝子を単離して、リコンビナントタンパク質として発現させ、OsDAOと基質であるIAAとの共結晶構造解析に成功した。また、ゲルろ過により2量体および単量体の単離にも成功し、得られた各分子の酵素活性を調べたところ、IAAを介した2量体は単量体に比べ酵素反応速度がはるかに速いことが分かった。以上の結果から、ジベレリンの代謝酵素と同様に、OsDAOはオーキシンに依存した単量体と多量体形成のスイッチングを行い、それに伴う活性制御を引き起こすことが示唆された。これらの事から、本申請の目的であったDAOにもジベレリンの代謝酵素と同様のオーキシン依存的な多量体形成による酵素活性調節機構があるかどうかという問いに答えることができた。 当初の計画より順調に進んだことから、植物体内のジベレリン量がどのように調節されているのかに加えて、そのジベレリンがどこで作られ、どのように移動して作用しているのかを明らかにすることにした。その結果、糖輸送体であるSWEETタンパク質のひとつであるイネのSWEET3aが、ジベレリンを輸送することを見出した。このジベレリンは茎頂へ輸送され、初期成長の促進に寄与することが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は基質であるオーキシンや、OsGA2ox3においてアロステリック制御に寄与するK308に対応する塩基性アミノ酸が多量体形成や活性にどのような効果を持つのかをMDシミュレーションを中心に解析する。このMDシミュレーションには、量子研の桜庭俊博士との共同研究により行う。さらに反応に関与するアミノ酸も特定でき、変異体による酵素活性測定などにより、今後より詳細なメカニズムを決定できる可能性がある。 さらに、ジベレリンの調節機構や輸送に関して研究が進んだことから、当初の計画にはなかったが、ジベレリンがどのように細胞伸長に関与しているのかについて水ポテンシャルに着目し、ジベレリンが植物体内の水の流れに寄与しているかを調べる。
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