研究課題/領域番号 |
20H03277
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
宮島 俊介 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (20727169)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 植物微生物相互作用 / 植物発生学 / 特化二次代謝経路 |
研究実績の概要 |
根は土壌微生物の攻撃といった生物的刺激に応答し、特化二次代謝経路の活性化を介した防御応答を駆動するとともに、根の成長ベクトルを転換させる。本研究では、防御応答と成長制御の統御機構の解明を通じ、根の対微生物応答の分子実体を理解する研究に取り組む。 これまでの研究から、根冠が病原性糸状菌に応答し、根冠細胞で特異的に特化二次代謝産物の合成酵素の発現を活性化すること、さらには、未知の細胞間シグナルを介し、分裂組織の活性を低下させることを見出していた。2021年度では、この防御と成長の統御における最上流に位置する病原性糸状菌の認識機構について解析を行った。 2020年度の成果から、糸状菌の細胞壁成分であるキチンを認識する受容体LYK5が根冠細胞に特異的に発現する事を見出していた。さらに、その共受容体であるCERK1の発現解析から、LYK5-CERK1共受容体は、根冠細胞で特異に構築されていることを見出した。 次にキチン処理により、その機能を確認したところ、キチン単独では、病原性糸状菌に応じた遺伝子発現誘導の一部は再現されるものの、特化二次代謝経路の酵素遺伝子の発現誘導には至らなかった。この結果は、糸状菌認識におけるキチンに独立した経路の存在を示唆する。 病原性糸状菌は植物細胞に感染する際に、細胞壁分解酵素を分泌することで植物細胞壁を分解する。この時、産出されたセルビオースなどの植物細胞壁分解産物は、植物細胞により認識される。そこで、糸状菌細胞壁成分キチンおよび植物細胞壁の分解産物のセルビオースに関して、その機能性を確認した。その結果、キチンとセルビオースを同時に添加した場合において、根冠細胞における特化二次代謝経路の酵素遺伝子の発現を誘導する事、さらには、このキチンとセルビオースの相乗的な機能は、LYK5-CERK1機能に依存する事を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度の研究から、糸状菌由来のキチンと、植物細胞壁の分解によって生じるセルビオースという2つの由来の異なる分子パターンの相乗的な効果により、根冠における病原性糸状菌の認識が行われてている可能性を見出した。また、この過程で機能する共受容体LYK5-CERK1の発現解析から、根冠において微生物認識に機能するこの共受容体が特異的に構築されていることを見出した。これら2021年度の研究から、病原性糸状菌に応じて生じる根の防御応答と成長変化の初発にあたる病原性糸状菌認識の鍵因子の同定を達成したと考える。 今後、これらの発見に基づき、RNAseq解析を通じて、防御応答と成長制御の統御しうる分子実体の解明を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、2021年度の発見に基づき、病原性糸状菌の攻撃に生じる防御応答と成長変調を制御する分子機構、およびそれらを統御する分子実体の探索を行う。まず、野生型および共受容体の機能欠損体lyk5 cerk1に対し、それぞれ、病原性糸状菌の感染に加え、キチン、セルビオース処理を行い、RNAseq解析から転写変動遺伝子を同定する。この時、LYK5 CERK1依存的な転写変動を示す遺伝子群に着目し、レポーター系統を用いた網羅的な組織発現様式と、糸状菌攻撃時の発現変動パターンを明らかにする。
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