研究課題/領域番号 |
20H03278
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
真野 純一 山口大学, 大学研究推進機構, 教授 (50243100)
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研究分担者 |
杉本 貢一 筑波大学, 生命環境系, 助教 (00511263)
村田 芳行 岡山大学, 環境生命科学研究科, 教授 (70263621)
深城 英弘 神戸大学, 理学研究科, 教授 (80324979)
武宮 淳史 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (80448406)
山内 靖雄 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (90283978)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 活性酸素 / レドックスシグナル / グルタチオントランスフェラーゼ / 活性カルボニル / 親電子物質 / アクロレイン / 植物 / 環境応答 |
研究実績の概要 |
1. ジャスモン酸メチル(MeJA)による気孔閉口シグナルにおいて,過酸化水素(H2O2)活性カルボニル種(RCS)が関与することを以下の実験から明らかにした。(1) 野生株タバコにMeJAを与えると気孔閉口が誘導されるが,RCS消去酵素であるアルケナールレダクターゼ(AER)を過剰発現させた(AER-OE)タバコはMeJAに応答した気孔閉鎖が起こらない。(2) 野生株の表皮にMeJAを与えるとアクロレインや4-ヒドロキシノネナール(HNE)などRCSの含量が増大したが,AER-OEタバコではRCSは増大しなかった。(3) MeJA添加による葉でのH2O2増大は,野生株でもAER-OE株でも同程度であった。これまで関与を明らかにしてきたアブシシン酸およびオーキシンのシグナル伝達とあわせ,3種の植物ホルモンのシグナル伝達にRCSが関わることがわかった。 2. 植物固有のRCS消去酵素であるアルケナールレダクターゼ(AER)が,βカロテン酸化生成物(アポカロテノイド)であるβイオノンなどを基質として認識することを見出した。アポカロテノイドは葉緑体から核へのレトログレードシグナルを担っており,細胞質に局在するAERがレトログレードシグナルを調節している可能性を指摘した。 3. もっとも毒性の高いRCSであるアクロレインを消去する低分子化合物を植物から探索し,カテキン類(エピカテキン,エピガロカテキン,エピカテキン没食子酸など)は,一分子あたりアクロレインを3分子結合する消去能をもつことを見出した。エピガロカテキン没食子酸のアクロレイン付加生成物の構造を初めて解明した。また,カテキン類のアクロレイン消去能は加熱によっても失われないことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. プログラム細胞死(PCD)開始に関わるRCSによるカスパーゼ-3様プロテアーゼ(C3LP)活性化機構:RCSにより活性化されるC3LPの実体は20Sプロテアソーム(20SP)のサブユニットβ1(PBA1)であることを明らかにした。タバコ培養細胞からPBA1の精製を開始した。精製後はPBA1プロテアーゼ活性へのRCSの影響を解析する。 2. RCSによるオーキシンシグナル増強メカニズム:RCSがAux/IAAタンパクの分解を促進することから,TIR1をRCS標的の第一候補と考え,TIR1タンパク質へのRCS修飾の影響を解析するため昆虫細胞での発現ベクターを作成した。タンパク質大量調製後は,表面プラズモン解析により,オーキシン-TIR1-Aux/IAA複合体形成をRCSが促進する可能性を検証できる。 3. 青色光による気孔開口に対するRCSの阻害機構:青色光シグナル受容から気孔開口にいたるシグナル伝達経路を構成するタンパクに対し,RCS修飾が起こることで気孔開口が阻害されることがわかった。論文執筆中である。 4. RCS機能のコンパートメントごとの違い:(1) 葉緑体で生じるアポカロテノイドを消去するためにAERを葉緑体局在させるシロイヌナズナ組換え体を作成している。現在,複数系統のT2株を取得しており,ホモ接合体確立後は,レトログレードシグナル応答と葉緑体でのアポカロテノイド及びRCS代謝との関係を解析できる。(2) アポプラストでのRCSの作用と生理的意義を解明する方策として,HNEとアクロレインを特異的に消去するグルタチオントランスフェラーゼTau17(GSTU17)をアポプラストに局在させる組換えシロイヌナズナを作成している。現在,複数のT1株を取得しており,ホモ接合体確立後は,アポプラストで活性酸素が生成する感染・傷害応答時のRCSの機能を解析できる。
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今後の研究の推進方策 |
1. RCSによるC3LP活性化機構とPCD開始過程における意義の解明:タバコBY-2細胞から20SPを単離し,PBA1のC3LP活性を確認する。これにRCS(アクロレインまたはHNE)を加え,細胞抽出液で観察したC3LP活性化が起こることを検証する。活性化した場合,PBA1タンパク質上のRCS修飾を受けるアミノ酸残基をLC-MS/MS解析で特定する。PBA1がRCS修飾されていない場合は20SPの他のタンパク質の修飾を解析する。さらにRCSの標的となるアミノ酸残基を修飾されないものに置換した変異遺伝子(cDNA)を作成し,これをBY-2細胞で発現させ,PCD開始への影響を解析する。 2. RCSによるオーキシンシグナル増強メカニズム解明:昆虫細胞発現系から精製したTIR1タンパク質を用い,表面プラズモン解析により,オーキシン受容複合体形成をRCSが促進するか検証する。促進された場合,TIR1タンパク上のRCS修飾されるアミノ酸残基を特定する。またそのアミノ酸残基を修飾されないものに置換した変異遺伝子をtir1欠損株に導入し,オーキシン応答への影響を解析する。 3. 葉緑体からのレトログレードシグナルをRCSが担う可能性の検証:AERを葉緑体に局在化させた組換えシロイヌナズナと野生株とで,強光照射後のRCS組成の変化と強光応答遺伝子発現パターンを比較する。遺伝子発現に関わる可能性のあるRCSを特定し,これが葉緑体で生じることをin vitroで検証する。 4. アポプラストの活性酸素シグナルにRCSが関与する可能性の検証:GSTU17をアポプラストに局在化させた組換えシロイヌナズナに傷害刺激,病原菌感染刺激を与え,酸化的バーストのあとのリグニン合成および防御遺伝子発現応答を野生株と比較する。RCS測定から,アポプラストでのRCSの新たな生理的意義を解明する。
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