研究課題
気孔の二酸化炭素応答に異常をもつシロイヌナズナ変異体cdi4は、葉面温度を指標にしたハイスループットスクリーニング技法により単離された。cdi4の原因遺伝子はホスファチジルエタノールアミン合成経路の律速酵素PECT1をコードしていた。PECT1は、植物の胚発生に必須であると報告されているが、気孔の環境応答における役割は知られていない。ホスファチジルエタノールアミン含量が減少したcdi4において、気孔の二酸化炭素応答は、光及びカビ毒フシコクシンに対する応答と共に低下していた。PECT1は孔辺細胞を含む全ての組織で発現していたため、孔辺細胞特異的にPECT1の発現を抑制した系統を作成し、気孔応答を調べた結果、cdi4と同様に気孔の開口応答が低下していた。この結果は、孔辺細胞で発現するPECT1が気孔の開口応答を制御することを示している。気孔開口におけるPECT1の機能を明らかにするため、光によって活性化され、気孔開口を駆動する細胞膜プロトンATPaseに着目した。細胞膜プロトンATPaseの発現量や局在を調べた結果、cdi4と野生型との間に顕著な違いは見られなかった。さらにフシコクシンによるプロトンATPaseのリン酸化やプロトンポンプ活性化においてもcdi4変異の影響はなかった。これらの結果から、ホスファチジルエタノールアミンは細胞膜プロトンATPaseとは独立した経路で気孔開口を制御するリン脂質であることが分かり、ホスファチジルエタノールアミンの新たな役割が示された。
2: おおむね順調に進展している
植物の二酸化炭素感知機構において、ホスファチジルエタノールアミンが重要な役割を果たすことを示すことができたから。
リン脂質がどのように気孔開閉を制御しているのか、詳細な分子メカニズムを明らかにするため、プロトンATPaseの下流で機能するカリウムイオンチャネルの活性に着目した研究を進める予定である。また、リン脂質が膜の小胞輸送に関与する可能性を検証することで、二酸化炭素シグナル伝達における脂質の新たな役割に迫りたい。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 5件)
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