植物は気孔を介して大気とガス交換を行っているが、同時に水分損失や病原菌侵入のリスクを伴うため、気孔の開閉は周囲の環境変化に応じて適切に調節されている。CO2濃度の上昇による気孔閉鎖には、アブシジン酸 (ABA) を介したシグナリング経路が関わっているが、ABA非依存的な気孔応答制御機構も存在しており、ABA変異体でも気孔閉鎖応答能力が完全に失われるわけではないことがわかっている。しかしABA非依存的な気孔応答メカニズムの実体は不明な点が多い。当該年度において、サーマルイメージング技法と蒸散測定装置を用いた順遺伝学的スクリーニングにより、シロイヌナズナM2植物の中から野生型と比較して高い蒸散速度を示す変異体aics1 (ABA-independent CO2 signaling 1) を単離した。単離した変異体の気孔特性を精査したところ、気孔開度と気孔密度がともに上昇していた。この変異体では低湿度に応答して正常にABAを合成する能力を有しており、また葉にABA処理したときの気孔閉鎖応答性も正常であったことから、この変異体の気孔特性の変化はABA非依存的に引き起こされた可能性が示唆された。この変異体の原因遺伝子として同定したAICS1は、これまで気孔応答への関与が報告されていない遺伝子であった。今後、単離した原因遺伝子の機能解析を進めることは、ABA非依存的な気孔応答メカニズムの実体解明への足がかりとなると考えられる。
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