研究実績の概要 |
本研究は、精子形成の全容を理解することを目指して、一次精母細胞において長鎖非コードRNAと多機能性ゲノム(DPE, dual promoter-enhancer)が協働的に機能するという新しいメカニズムを、マウスを用いて検証するものである。昨年度までに、ここ数年間で充実してきた公共のChIP-seqデータを用いて、マウス精原細胞と一次精母細胞におけるより信頼性の高いDPE配列をリスト化した。本年度は、そのうち新たに同定された10個をクローニングしてレポーター解析を行い、DPE活性を検証した。生殖細胞由来のGC-2spd(ts)細胞と肝臓由来であるが一部生殖細胞の性質を有するHepa1-6細胞で検証を行った結果、少なくとも8個はDPE活性を持つことが判明した。したがって、今回新たにリスト化したDPE候補配列の多くが実際にDPEとして機能することが考えられる。そこで、これらのDPE配列がlncRNA-HSVIII制御下にある遺伝子群と重複しているか明らかにするために2カ月齢の野生型マウスとノックアウトマウスの精巣におけるRNA-seqデータと照合したところ、752個のDPEがlncRNA-HSVIIIノックアウトマウスで発現減少する遺伝子の近傍に存在することがわかった。また、我々の研究室で解析している他の2つの長鎖非コードRNAについても同様の検証を行った結果、Tesraの制御下にある遺伝子のうち715個とStartの制御下にある遺伝子のうち574個の近傍にDPEが存在することがわかった。次に、lncRNA-HSVIIIノックアウトマウスの表現型についても引き続き解析を行った。その結果、6カ月齢のノックアウトマウスの一部で精細管内の空胞化、精巣縦隔の形態異常などが観察され、異常精子の数も増えていた。したがってlncRNA-HSVIIIが精子形成に機能的であることが示された。
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