研究課題/領域番号 |
20H03287
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
太田 龍馬 帝京大学, 理工学部, 講師 (00647969)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 生殖細胞系列 / 性決定 / 遺伝子量補償 / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
生殖細胞系列の性差を生み出す機構は、未だ多くの動物種で明らかになっていない。私たちは、ショウジョウバエの始原生殖細胞において、X染色体上の遺伝子の発現をオス(XY)とメス(XX)で等しくする遺伝子量補償が欠如していることを明らかにした。 本年度は、「研究1. X染色体上の遺伝子の発現を倍加することでオス始原生殖細胞がメス化するのか」を推進した。まず、ショウジョウバエの遺伝子量補償を担うMSL複合体構成因子のうち、Msl1、Msl2、Msl3、roX2を強制発現しても、オス始原生殖細胞のメス化がほとんど起こらないことを明確にした。また、トランスクリプトームデータを詳細に解析し、これら4因子の強制発現では、始原生殖細胞のメス化に関与することが知られている遺伝子の発現が、部分的な発現上昇にとどまっていることを明らかにした。さらに、上記4因子以外のMSL複合体構成因子の発現を調べ、roX1とMleの発現がオス始原生殖細胞において非常に低いことも明らかにした。roX1とroX2は互いに相補的に働くことが知られている。したがって、これらの結果は、オス始原生殖細胞における遺伝子量補償の付与、およびそのメス化には、Msl1、Msl2、Msl3、roX2に加え、Mleを強制発現することが必要であることを示唆している。そこで、Msl1、Msl2、Msl3、roX2、Mleを強制発現することのできる、遺伝子改変ショウジョウバエを作製した。 また、「研究3.始原生殖細胞のメス化に関与するX染色体上の遺伝子の同定」のため、始原生殖細胞の性決定時期である、中期および後期胚、さらに始原生殖細胞の性分化が開始する一令幼虫期のオスとメスの始原生殖細胞のトランスクリプトーム解析を行った。この解析から、全ての時期で、オスに比べ、メス始原生殖細胞で高発現するX染色体上の遺伝子として、35遺伝子を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、オス始原生殖細胞におけるX染色体上の遺伝子の発現の倍加、およびそのメス化に必要と考えられる因子を絞り込むことができた。この成果をもとに、今後は、「研究1. X染色体上の遺伝子の発現を倍加することでオス始原生殖細胞がメス化するのか」をさらに推進する。また、各発生時期のトランスクリプトーム解析から、始原生殖細胞のメス化に関与すると考えられる候補遺伝子を選定することができた。今後はこれら候補遺伝子の機能解析へと移行する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、Msl1、Msl2、Msl3、roX2、Mleを強制発現したオス始原生殖細胞において、X染色体上の遺伝子の発現が倍加されるのかを、トランスクリプトーム解析により解析する。さらに、それら遺伝子を発現させたオス始原生殖細胞がメス化するのかを、細胞移植法を用いて解析する。以上により、「研究1. X染色体上の遺伝子の発現を倍加することでオス始原生殖細胞がメス化するのか」を明らかにする。また、この解析から、X染色体上の遺伝子の発現の倍加に必要な因子が明らかになると考えられる。それら因子のオス始原生殖細胞における発現制御機構を調べることで「研究2.オス始原生殖細胞において遺伝子量補償の欠如を導く分子メカニズムの解明」も推進していく予定である。また、トランスクリプトーム解析から選定した候補遺伝子の機能解析をRNAi法を用いて進め、「研究3.始原生殖細胞のメス化に関与するX染色体上の遺伝子の同定」を行う。
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