「研究1. X染色体上の遺伝子の発現を倍加することでオス始原生殖細胞(PGC)がメス化するのか」に関して、昨年度の解析から、遺伝子量補償を担うMSL複合体を構成する因子を発現させる時期が重要であると考えられた。そこで、これら因子を母性的に供給した結果、性決定時期のXY型PGC において、X染色体上の遺伝子の発現の倍加に関わるヒストンH4K16のアセチル化(H4K16ac)が観察された。しかし、その発現レベルは低く、そのようなXY型PGCのメス化も観察できなかった。このことから、XY型PGCでは、H4K16acを抑制し、容易にメス化が起こらないような仕組みがあることが示唆された。 「研究2. XY型PGCにおいて遺伝子量補償の欠如を導くメカニズムの解明」については、RNA結合タンパク質のnanosがMsl1 mRNAの発現を抑制するという昨年度の結果をもとに、その仕組みに関する研究を推進した。Msl1 mRNA の3’UTRに存在するnanos結合配列(NRE)における変異の有無により、Msl1 mRNAとnanosとの結合が変化するのかを調べた結果、変異の有無に関わらず、Msl1 mRNAとnanosの結合が観察された。このことから、Msl1 mRNAとnanosの結合には、3’UTR以外のNREが関わることが示唆された。 「研究3. 始原生殖細胞のメス化に関与するX染色体上の遺伝子の同定」については、PGCのメス化に関わることが示唆されたCG1677の役割に関する研究を推進した。その結果、CG1677は、(1)PGCのメス化に関わるSex-lethalの下流で機能すること、(2)PGCのオス化に関わるPhf7の発現を抑制することを示唆する結果を得た。このことからCG1677は、PGCのメス化を誘導するとともに、PGCのオス化を抑制する働きを有していることが示唆された。
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