研究課題/領域番号 |
20H03297
|
研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
風間 裕介 福井県立大学, 生物資源学部, 教授 (80442945)
|
研究分担者 |
松永 幸大 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (40323448)
FAWCETT JEFFREY 国立研究開発法人理化学研究所, 数理創造プログラム, 上級研究員 (50727394)
平野 智也 宮崎大学, 農学部, 准教授 (80455584)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 染色体 / 転座 / 逆位 / 重イオンビーム / 3Dゲノム構造 / シロイヌナズナ |
研究実績の概要 |
逆位や転座など遺伝子数の増減や変化を伴わない染色体再編成が生物進化において重要であることは、比較ゲノム解析から明らかである。しかし、逆位や転座が表現型に与える直接的な影響を知るには、実験的に誘発してその影響を見る必要がある。我々は、順遺伝学的手法として、植物において染色体再編成を従来の30倍の頻度で誘発する、重イオンビームを用いた新技術を開発した。本研究では重イオンビームで作出した3種の変異体がもつ逆位や転座が遺伝子発現や形質、3Dゲノム構造やエピゲノムへ及ぼす影響を精査することで、逆位や転座が植物に与える影響を解明する。 ・Ar55-as6変異体:本変異体は、逆位、欠失、転座をヘテロでもち、変異表現型は顕性である。表現型を精査したところ、初期の葉の生長が野生型よりも遅く、花成も10日ほど遅れるが、最終的な草丈は野生型よりも大きく、草体の寿命も長いことがわかった。播種後40日目の葉についてRNA-seqを行ったところ、ゲノム全体で遺伝子発現が上昇し、逆位や転座が生じた染色体領域では特に遺伝子発現上昇が高いことがわかった。 ・C290-458-as1変異体:本変異体は、第5染色体の逆位を原因とする大輪化の形質を示す。逆位の断点に近接する上流および下流領域の遺伝子のうち、花における発現が見られる遺伝子を抽出し遺伝子発現を確認したところ、逆位の上流および逆位の内側の遺伝子において発現量が変化している可能性が示唆された。 ・C200-74-N2変異体:本変異体は、第2染色体上に生じた逆位を原因とする大輪化変異体である。本変異体の原因変異を精査し、逆位によるトランケーションが生じた2遺伝子座のうち、片方の遺伝子座における遺伝子破壊が大輪化の原因であるとを明かにした。さらに、この変異体では花弁の細胞数の増加と細胞サイズの拡大のいずれも生じており、新規の大輪化変異体であることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3種の変異体について、変異形質の原因領域を明らかにし、Ar55-as6については全ゲノムレベルの遺伝子発現変動が生じ、C290-458-as1変異体では、逆位の上流および逆位の内側の遺伝子において発現量が変化している可能性を見出し、C200-74-N2変異体については、新規の大輪変異体であることを明らかにした。これらの進展は、それぞれの研究においてインパクトの大きな論文化の道筋を立てたものと評価できる。 Ar55-as6については、ゲノム支援により、染色体再編成の詳細に関する知見を得た。Ar55-as6ではゲノムの一部が重複していることが判明した。さらに、本変異体ではエピゲノム状態が変化に関する知見も得られた。 シロイヌナズナの大輪関連遺伝子は、中国のグループを中心に同定されてきた。これらは、細胞サイズの制御か、細胞増殖の制御に関わる遺伝子に分類されるが、本研究で対象とするC290-458-as1変異体やC200-74-N2変異体は、どちらも既知の遺伝子変異では説明できないことがわかった。 以上の成果は、重イオンビームで誘発された変異体の新たな可能性を示すものであり、本課題は、おおむね順調に進んでいるといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
Ar55-as6については、Chip-seq解析を行いエピゲノムの変動を確認する。Hi-C解析とFISH法等の顕微鏡観察により、染色体再編成の状態を確認する。また、Ar55-as6と同じような変異体をフローサイトメトリー解析で簡易に選抜し、重イオンビーム照射でゲノムの一部が重複した場合に、ゲノムレベルでの遺伝子発現量の上昇がみられるのかを検証する。 C290-458-as1変異体についても、Ar55-as6変異体と同じように、RNA-seqを行い、逆位の内部や上流だけでなく、ゲノム全体での遺伝子発現レベルの上昇がみられるかどうかを検証する。
|