本研究では、エミューの前肢を題材に、その前肢の退縮機構を明らかにすることを目標に研究を行った。エミューの前肢は、骨の短縮、滑膜関節の消失、および、左右非対称な骨格を持つという特徴を示しており、これらは前肢の先端には筋肉が存在しないために、発生中に四肢を動かせないことに起因して生じた特徴であることがわかった。さらに、前肢の先端に筋肉がない原因を探ったところ、エミューの前肢で特異的な発現が確認されている Nkx2.5 遺伝子が関係していることが明らかとなった。エミューの前肢芽では、皮筋節から脱上皮化し先端へと遊走している筋芽細胞(遊離筋)が Nkx2.5 陽性細胞によってトラップされるため、遊離筋はそれ以上遊走することができなくなっていたのである。そして、遊離筋とNkx2.5 陽性細胞の 2 種類の細胞は混在したまま骨格筋へと分化していた。また、Nkx2.5 陽性細胞のごく一部は、血球幹細胞にも分化していることも見出した。これらの結果は、器官の退縮が新規の遺伝子の発現領域の獲得による新しい細胞種への分化という遺伝的要因に加え、筋形成不全に伴う力学的ストレスの低下という後天的要因の組み合わせによって起こりうるという、全く新しい器官退縮の発生メカニズムの存在の提唱に繋がった。
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