研究課題/領域番号 |
20H03303
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
菊池 義智 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (30571864)
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研究分担者 |
竹下 和貴 秋田県立大学, 生物資源科学部, 助教 (40799194)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 共生 / 昆虫 / 微生物 / 進化 / 遺伝的基盤 |
研究実績の概要 |
あらゆる真核生物の共通祖先で生じたミトコンドリア獲得のインパクトからもわかるように、細菌との細胞内共生は生物進化において極めて重要な役割を果たしてきた。100万種以上が知られる昆虫はその約半数が細胞内共生細菌を持つと言われ、細胞内共生現象の理解に向けて古くから研究が行われてきた。しかし、細胞内共生の遺伝的基盤についてはほとんど理解が進んでいないのが現状である。これまで申請者らは遺伝子組換え可能なホソヘリカメムシの腸内共生細菌を研究してきたが、最近この細菌がナガカメムシ類では細胞内共生を行うことを発見した。本研究では、この「異なる宿主で腸内共生と細胞内共生を行う」共生細菌を対象に、遺伝子発現解析とTn-seq法を駆使することで細胞内共生における遺伝的基盤の徹底解明を行う。今回は、Burkholderia insecticola RPE64株を共生させた際のホソヘリカメムシ(腸内共生)とヒョウタンナガカメムシ2種(細胞内共生)について、共生器官のトランスクリプトーム解析(RNA-seq)を行い、両者の比較解析を行った。その結果、両者で共通する新規抗菌ペプチドが共生器官で高い発現していることが明らかとなった。これら宿主側の遺伝子については、RNAiによってその腸内共生・細胞内共生に果たす役割を解明するべくさらなる解析の候補となる。Burkholderia insecticola RPE64株についてコバネヒョウタンナガカメムシおよびオオモンクロナガカメムシ共生器官におけるTn-seqを行うべく、感染動態の確認や感染時のボトルネックについて調査を進め、実際にTn-seqを行う際の基盤を固めた。同時に、細胞内共生特異的に重要な役割を果たす共生細菌側の遺伝子としてBacAを特定することに成功し、その遺伝子変異株についてカメムシ体内での増減や宿主への影響について解析することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
細胞内共生におけるTn-seqを進めるための基盤を確立し、次年度に繋げる十分な進捗を得た。一方で、新型コロナの影響もあり、分担者および協力研究者との連携がうまく取れずに一部研究の遅延も見られた。宿主側の遺伝子や、細胞内共生に実質的に関わる遺伝子の同定にも成功しており、遅延が見られた分も十分に補償する成果が得られているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は分担者および協力研究者との連携を密に取り、コバネヒョウタンナガカメムシまたは近縁のオオモンクロナガカメムシを対象にTn-Seqを進める。また同時並行として、特に細胞内共生に関わる遺伝子として同定された共生細菌のBacA遺伝子について機能の更なる深堀を行う。腸内共生を行うホソヘリカメムシにおいてこの遺伝子欠損株を感染させた実験から、この遺伝子は腸内共生には全く関与しないことが明らかとなっており、細胞内共生特異的な遺伝因子として非常に興味深い性質を有している。ポイントミューテーションや異種発現、さらには宿主カメムシ遺伝子のRNAiなども視野に入れ、本遺伝子がカメムシにおける細胞内共生の進化に果たした役割についてさらに解明を進めたい。
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