100万種以上が知られる昆虫はその約半数が細胞内共生細菌を持つと言われ、細胞内共生現象の理解に向けて古くから研究が行われてきたが、共生細菌の多くが宿主細胞内に高度に適応しているために培養や遺伝子組換えが難しく、細胞内共生の遺伝的基盤についてはほとんど理解が進んでいない。これまで我々は遺伝子組換え可能なホソヘリカメムシの腸内(細胞外)共生細菌を研究してきたが、最近この細菌がヒョウタンナガカメムシ類において細胞内共生を行うことを発見した。本研究は、この「異なる宿主で腸内共生と細胞内共生を行う」共生細菌を対象に、共生細菌側の遺伝的基盤を徹底解明することを目的としている。 本年は、これまでに同定することに成功した細胞内共生関連遺伝子に焦点を絞り、その機能を総合的に解明するべく研究を展開した。Burkholderia insecticola RPE64株の遺伝子変異株を作成し、共焦点顕微鏡観察および電子顕微鏡観察によって消化管上皮細胞への感染プロセスを明らかにするとともに、当該遺伝子の遺伝子相補株を作成し、細胞内共生が復帰するのかを検証した。さらに宿主ナガカメムシの遺伝子発現解析を進め、RNAiスクリーニングと組み合わせることで細胞内共生の維持に関わる宿主側因子の特定に成功した。これらの結果は、環境から獲得される細胞内共生がどのような分子メカニズムで成立しているのかを初めて明らかにしたものであり、昆虫における細胞内共生の初期進化プロセスの考察に繋がる成果と言える。
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