研究課題/領域番号 |
20H03304
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
堀口 健雄 北海道大学, 理学研究院, 教授 (20212201)
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研究分担者 |
柁原 宏 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (30360895)
WAKEMAN KEVIN 北海道大学, 高等教育推進機構, 助教 (70760221)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 寄生性渦鞭毛藻累 / Haplozoon / 痕跡的葉緑体 / タケフシゴカイ / 微細構造 / 分子系統解析 / トランスクリプトーム解析 / タケフシゴカイ |
研究実績の概要 |
本研究は,渦鞭毛藻類の中でも例外的に多細胞体制を獲得した寄生性生物であるハプロズーン属の種多様性,系統的位置,また分子生物学的アプローチにより進化の過程で失ったと考えられる光合成関連の代謝経路の実体および多細胞化の機構の解明,また,多細胞体の先端細胞に存在する宿主に付着するための伸縮可能な刺状装置の構造の詳細と運動機構を明らかにすることも研究目的としている。 2020年度は以下の成果を挙げた。1)北海道の忍路海岸から宿主であるタケフシゴカイ類のNicomache属を採集し,寄生していたHaplozoonの1種を単離し,ゲノム解析とトランスクリプトーム解析に供するための試料として分析を行う機関に送付した,2)2020年7月および2021年3月において,広島県竹原臨海実験所(広島大学)付近の海岸からNicomache属タケフシゴカイを採集し,そこからHaplozoon属の種を複数単離した。形態観察(光学・走査・透過型電子顕微鏡)と共に分子系統学的解析(18Sおよび28SrDNA)を実施したところ,これらは4種とも未記載種である事が明らかとなった。現在,これら4種を新種記載するべく,データを収集中である,3)2020年8月に忍路臨海実験所からHaplozoon ezoenseを単離した。これらの個体は,電子顕微鏡および共焦点レーザー顕微鏡での観察のため,チューブリン,アクチン,および膜系などの染色をおこなった。4)2020年8月には厚岸臨海実験所において,船を用いての海底底質の調査も行った。結果,単針類の未記載種2種,Hubrechtella属とTubulanidae科の未記載種がそれぞれ1種,オロチヒモムシと思われる個体が1個体など分類学的に興味深い種が得られたが,Haplozoonは寄生していないことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の対象生物であるHaplozoonは寄生性の生物であるため,生存のためには宿主の存在が必要である。実際,宿主の飼育も含めて,本生物を研究室内で維持することは非常に困難である。従って,研究実施のためには,その都度,野外に採集に行かざるを得ないが,コロナ禍においてはそれもなかなか難しいのが現状であった。しかしながら,新型コロナウイルスの感染状況を注意深く見極めつつ,北海道内(厚岸および忍路)および広島(竹原)の各地に短期間採集に出かけることで,研究材料を確保することが出来た。数少ない採集の機会に得た貴重な標本を最大限活かすことによって,まずは,第1の研究目的である,未だに充分な研究が行われていない我が国沿岸のHaplozoonの種多様性の実体を解明するという課題に関して,4種類の未記載種(新種)と思われる種を採集出来たことは大きな成果である。それらに関して,新種記載(分類学的研究)のための各種データ(光学顕微鏡,走査型電子顕微鏡,透過型電子顕微鏡および分子系統学的データ)を取得する事が出来,現在,論文執筆中であり,この点に関しては順調に研究が進展していると評価できる。また,分類学的な研究に加えて,本プロジェクトでは,痕跡的葉緑体の機能の解明も研究目的の一つとしている。本研究に関しては,トランスクリプトーム解析を実施するべく,標本を分析機関に送付して,解析を依頼しているところである。まだ,結果は出ていないが,初年度の実施状況としては,概ね計画通りであると言える。また,Haplozoonは体の先端に伸縮可能な特殊な構造をもつが,この構造の由来や運動機構はわかっておらず,この点を解明する研究にも着手した。こちらもまだ着手した段階で,染色方法などの検討を実施している段階である。初年度の状況としては,計画通りである。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究により,北海道の種類と広島からの種類が明らかに異なっていたことが明らかとなった事から,さらなる種多様性(新種)の解明については,今まで訪ねたことの無い地域・海岸をターゲットとすることが望ましい。一方,2021年度においても,コロナ禍での研究実施という点では2020年度と比較して状況の厳しさは変わらず,むしろ大都市を中心として感染状況は悪化しており,材料の採集に当たっては,注意深く各自治体や国の方針を見極めて採集旅行を計画する必要がある。従って,他府県への採集計画については,今後状況を見つつ柔軟に考慮していく予定である。 北海道内において,都市間移動が可能な状況においては,忍路や厚岸などの道内のすでにHaplozoonの分布が確認されている場所から標本を採取し,トランスクリプトーム解析や刺状装置の細胞学的研究などを実施する予定である。 また,研究成果に関しては,特に分類学的な成果に関して論文を公表できるように準備する。
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