研究課題/領域番号 |
20H03308
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
東城 幸治 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (30377618)
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研究分担者 |
新美 輝幸 基礎生物学研究所, 進化発生研究部門, 教授 (00293712)
竹中 將起 信州大学, 理学部, 特任助教 (00854465)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 昆虫 / カゲロウ / 胚発生 / 卵胎生 / 胎生 / 発生遺伝 / 遺伝系統 / 卵黄タンパク質 |
研究実績の概要 |
従来、欧州の地域集団を対象とした研究から、フタバカゲロウ Cloeon dipterum は単為生殖能力をもつ卵胎生種とされてきた。しかし、日本列島の地域集団を対象とした我々の研究では、単為生殖能力をもたず、卵胎生ではなく、より特異な新規の胎生である可能性が高いことに端を発し、本研究課題を遂行してきた。 これまでの分子系統解析から、種内に遺伝的に大きく分化したいくつかの系統が存在し、少なくとも日本列島の系統(朝鮮半島も同じ系統)は、単為生殖能力をもたず、卵胎生ではなく新規の胎生である可能性を示唆してきた。そこで、東アジア地域のフタバカゲロウにおける新規「胎生」の進化機構に関する研究として、日本列島産フタバカゲロウ系統を対象としたリシーケンスを行い、この結果をもとに、カゲロウ類での RNAi の手法確立やフタバカゲロウの卵黄タンパク質の前駆物質である vitellogenin 発現量の変遷などを検討してきた。 卵巣全体を用いた組織染色や蛍光染色、特殊な卵膜の構造に注目し、その形成過程に関する透過型電子顕微鏡TEM像の分析から、母体からの栄養物質が胚に供給される過程が観察され、卵胎生ではなく、胎生と考える上での根拠となるデータの蓄積が進展した。また、卵黄タンパク質の所在(卵内の蓄積か、母胎からの供給か?)に関しては、卵のみを用いて SDS-PAGE を実施した結果、未受精の時期から胚帯形成前の期間に減少していくタンパク質、増加していくタンパク質の存在が確認された。組織切片による組織学的観察の結果からは、蓄積されるタンパク質はない(あっても微 量)はずであり、これらのバンドが親から供給される物質である可能性が高い。すなわち、母胎からの栄養供給がされていることを支持するような結果の蓄積が進展している。 実験室内での継代飼育も順調であり、胎生の進化に関わる遺伝的基盤究明に向けて最終段階に入りつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、フタバカゲロウ Cloeon dipterum における新規「胎生」の進化機構に関する研究課題において、日本列島産フタバカゲロウ系統を対象としたリシーケンスを行い、この結果をもとに、カゲロウ類での RNAi の手法確立やフタバカゲロウの卵黄タンパク質の前駆物質である vitellogenin 発現量の変遷などを検討するための手法確 立に向けた試行錯誤を実施してきた。 また、卵巣全体を用いた組織染色、蛍光染色をするとともに、特殊な卵膜の構造に注目し、その形成過程について透過型電子顕微鏡(TEM)観察を進めてきた。 これらのアプローチに関しては、ここまでは順調に進展しており、胎生であることを示唆するようなデータが、年々、蓄積できている。 卵黄タンパク質の所在(卵内の蓄積か、母胎からの供給か?)に関しては、卵のみを用いて SDS-PAGE を実施した結果、未受精の時期から胚帯形成前の期間に 減少していくタンパク質、増加していくタンパク質の存在が確認された。組織切片による組織学的観察の結果からは、蓄積されるタンパク質はない(あっても微 量)はずであるので、これらのバンドが親から供給される物質である可能性が高いと考えている。すなわち、母胎からの栄養供給がされていることを支持するような結果が順調に蓄積されている。
なお、これまでの研究成果については、2022年9月に開催された日本昆虫学会 第82回松本大会における大会主催の公開シンポジウム「DNA から紐解く昆虫の不思議な世界 -繁殖生態の進化-」を、本課題の代表者でもある東城幸治(信州大)と分担者である竹中將起(信州大)らがオーガナイズし、このシンポジウムの中で、本研究課題に関する以下の題目での招待講演を行った(登壇者は、本研究課題の協力者でもある谷野宏樹):*谷野宏樹・東城幸治・新美輝幸による「昆虫の特殊な繁殖システム「胎生」」との題での招待講演を行った。
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今後の研究の推進方策 |
「進捗状況」欄に記した通り、これまで、卵胎生ではなく新規の胎生であることに迫る上で重要な幾つかのアプローチを試行し、RNAi の手法確立や卵黄タンパク 質の前駆物質である vitellogenin 発現量変遷、卵巣全体を用いた組織染色、蛍光染色をするとともに、特殊な卵膜の構造に注目し、その形成過程について透過型電子顕微鏡(TEM)観察など、順調に進展している。 今後も継続して、これらのアプローチを進展させるとともに、卵黄タンパク質の所在に関しては、卵のみを用いた SDS-PAGE を実施した結果、未受精の時期から胚帯形成前の期間に減少していくタンパク質、増加していくタンパク質の存在が確認されている。組織切片による組織学的観察の結果からは、蓄積されるタンパク質はない(あっても微量)はずであり、これらのバ ンドが親から供給される物質である可能性が高いと考えている。 今後は、質量分析にかけて抗体を作成し、母胎からのタンパク質(栄養物質)の供給について、(1)どのようなタンパクが供給されているか? (2)いつ、どこから供給されているのか? といった点についてのより詳細な解明を目指す。 実験室内での継代飼育も順調に進んでおり、常に様々な発生ステージの試料が揃えられていることから、胎生に関わる遺伝的基盤の究明についても切り込めるような状態が整いつつある。卵胎生とされるような欧州の遺伝系統との発現遺伝子の比較解析なども実施できるような段階にまで漕ぎ着けた状況にある。世界的なCOVID-19のパンデミックも収まりつつあるので、欧州系統の確保やRNA トランスクリプトーム解析を実施することで、今後、この研究の本丸でもある胎生に関わる遺伝子探索に向けた実験に着手する予定である。
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