研究課題/領域番号 |
20H03315
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
占部 城太郎 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (50250163)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 湖沼生態系 / 栄養補償 / リン / 窒素 / 落葉 / プランクトン / 藻類 |
研究実績の概要 |
湖沼へ負荷される主な陸上有機物は落葉起源であり、炭素・エネルギー源として湖沼の腐食連鎖を駆動することで高次生産を支えると考えられて来た。しかし、落葉など陸上起源有機物には、リンなど湖沼一次生産を制限する栄養塩も含まれている。もし、浸漬した落葉からリンが容易に溶出するのであれば、落葉起源有機物は藻類生産を促し生食連鎖も駆動することになる。前年度の実験で、落葉から溶出する炭素、窒素、リン量とその比は樹種により大きく異ることがわかった。そこで、本年度は湖沼の動植物プランクトン群集や微生物群集が落葉によりどのような影響を受けるかを解析するとともに、落葉樹種による生食連鎖や腐食連鎖への影響を調べるための解析と実験を行った。実験については、の2020年度に採集した落葉樹種を用いて植物プランクトンの応答実験を行った。また、2022年度に使用する動植物プランクトン種の基礎的な解析を行うとともに、水辺の国調等で集積したデータを用いてダム湖を中心とするプランクトン群集の類型化を行った。 落葉を用いた実験では、前年度と同様に、一定量の落葉を水に浸漬したものを実験区培養液とし、対照区として窒素・リンを除く無機培地を添加した培養液も作成した。培養液に緑藻類を添加して応答を調べたところ、浸漬した落葉樹種により藻類の応答は異なるが、概ね溶出した窒素:リン比に対して一山型の応答を示すことが分かった。また、藻類成長を促すのではなく、負の効果を持つ樹種もあることもわかった。全国各地のダム湖のデータを用いたプランクトン群集の構造解析を行ったところ、動物プランクトン種組成は地域の種プールにより異なるものの、魚の有無などの他、水質環境により異なることが分かった。水質環境は集水域の被覆・土地利用に影響されることから、最終年度にむけて集水域植生とプランクトン群集構造との関係を調べていくこととした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究2年目にあたる本年度は、当初計画していたとおりの実験と解析を行う事ができた。ただし、実験については、試料は採集してあるものの、細菌や原生動物の応答についての定量解析が年度内に終了しなかったため、落葉樹種による生食連鎖と腐食連鎖の相対的な影響解析は翌年度に行うこととした。一方で、樹種によっては浸漬水が藻類に負の影響を与えることが分かり、これらが直接的な化学的因子によるものなのか、微生物等を介した間接的なものなのか、新たない探索要因として浮かび上がった。また、プランクトンの群集解析では、魚類の種組成や水質だけでなく、地域によって種プールが異なることが分かり、種レベルと機能群レベルでは陸上起源物質に対する応答が異なることが示唆された。これらは、当初予想していなかった成果であり、研究成果に厚みを加えるものとなった。よって、本研究は、概ね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、これまでの実験で蓄積してきたデータを基礎として、動植物プランクトンや腐食連載に関与する微生物を用いた実験を行い、それら生物群の応答が異なる落葉樹種の浸漬水でどのように異なるかを調べることで、異なる陸上起源物質に対する生食連鎖と腐食連鎖の応答の違いを明らかにする。また、実験と並行して、動物プランクトン群集に占める藻類食者と微生物食者(雑食者)の割合と、集水域の被覆・土地利用や植生との関係を解析し、実験でえられる現象が野外でも見られるか検証する。
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