研究課題
本研究プロジェクトでは、網羅的な生物群集時系列データと先進的な非線形時系列解析手法を利用して、複雑な野外生態系動態の予測と制御を可能にする枠組みを構築することを目的としている。1年目となる2020年度はすでに取得済みの生物群集時系列データを解析することで、制御対象となる生物(ツボカビと藻類)の間の屋外環境における因果関係の検出を行った。解析に使用したのは人口水田から取得された定量的DNAメタバーコーディングに基づく時系列データである。データ解析には非線形力学系における因果関係を検出できる手法であるEmpirical Dynamic Modeling (EDM)及びその派生手法を利用した。合計1000種以上を含むこの時系列データの中には10種のツボカビの仲間が含まれており、それらに着目してツボカビに影響を及ぼす種・ツボカビから影響を受ける種を検出した。解析の結果、ツボカビ各種には平均して14種程度の影響を与える種と13種程度の影響を受ける種が含まれていることがわかった。それらの配列を精査した結果、海の珪藻に寄生するツボカビと近縁な配列を持つもの(Euk96)が、緑藻の仲間(Halochlorella sp.やChlorella sp.)と比較的強い因果関係を持つ可能性がわかった。また、Euk96、2種の緑藻の仲間はいずれも実験水田において7月頃に優占的になる分類群であった。2021年度は時系列解析によって特定したこれら強い因果関係を持っている可能性がある種を実際の人口水田から単離・培養し、実験室環境下で実際に相互作用しているかどうかを確認する予定である。4-5月に圃場に人口水田を設置し、6-8月に水田から水サンプルを取得して単離培養を試みる。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画は、2020年度終了までに取得済みの生物群集時系列データを、特に制御対象となる生物(ツボカビの仲間)に着目して、非線形時系列解析を用いてツボカビに影響を与える種・ツボカビが影響を受ける種を特定することであった。本年度はほぼ計画通りに研究を進捗させることができ、無事に2021年度の目標である単離培養に必要な情報を取得することができた。従って、本年度の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断した。
2020年度の研究は予定通り進捗したので、2021年度の研究も当初の計画通りに進める。具体的には京都大学生態学研究センターの圃場に1m×1m程度の小型の人工池を設置し、ターゲットとするツボカビおよび藻類の捕捉を試みる。2017-2019年に設置した人口水田をほぼ同じ設定にしておけば、優占的な生物分類群は繰り返し出現することは確認しているため、過去のモニタリングで検出されたツボカビや藻類も再び出現すると期待している。2017-2019年は人工池内部でイネを栽培していたが、2021年度はイネを除いた状態で人工池を設置する予定である。ターゲットとなるツボカビ・藻類は目視及びDNA配列解析で出現を確認し、出現が確認されれば横浜国立大学の研究分担者の研究室において単離・培養を試みる。単離培養が順調に進んだ場合、実験室内での複数種を同時に培養することで実際に相互作用が起きうるかを確認する。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件) 図書 (1件)
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