研究課題/領域番号 |
20H03323
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
潮 雅之 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (40722814)
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研究分担者 |
鏡味 麻衣子 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 教授 (20449250)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 生態系制御 / 宿主-寄生者系 / 非線形時系列解析 / ツボカビ |
研究実績の概要 |
本研究プロジェクトでは、網羅的な生物群集時系列データと先進的な非線形時系列解析手法を利用して、複雑な野外生態系動態の予測と制御を可能にする枠組みを構築することを目的としている。1年目の2020年度にすでに取得済みの生物群集時系列データを解析して、制御対象となる生物(ツボカビと藻類)の間の野外環境における因果関係の検出を行った。2年目の2021年度には、野外圃場に人工水田を設置して、生物群集を定着させ、そこから複数種のツボカビの単離・培養に成功した。 具体的には、2021年5-6月に過去に行われた実験と同様に、野外圃場に約1m×1mの小型実験水田を設置した。実験水田内にはイネを植えて過去の実験を再現した。実験水田内で生物群集が定着するのを待ち、6-7月にかけて田面水のサンプリングを行った。サンプリングした田面水は横浜国立大学に輸送され、ツボカビの単離培養を試みた。その結果、4株のツボカビの単離培養に成功した。培養されたツボカビはインキュベーターで保持され、2022年度の操作実験に利用予定である。 また、操作実験の経過を効率的にモニタリングするために、野外環境における生物群集のモニタリングを迅速化・簡便化するための技術開発も同時に進め、実験手法・データ解析手法両面における進展が見られた。実験手法では環境DNAメタバーコーディングのためのシーケンス用DNAライブラリの構築のための迅速化プロトコルの開発に成功した。データ解析では、特定の分類群の生物が既存のユニバーサルプライマーで増幅可能かどうかを迅速に判定するためのデータ解析パイプラインを構築し、Rパッケージとして公開した。また、生態系動態の制御に資する可能性を秘めた新規な時系列解析法を提案した。 成果発表としては、査読付き論文2本・査読なしプレプリント論文2本を発表し、招待講演4件を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では2021年度終了までにツボカビの単離培養株を取得して、2022年度の野外での生物群集操作実験の準備を終える計画であった。これまでにツボカビの単離培養株の取得は成功しており、進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断できる。加えて、サンプル分析迅速化のためのプロトコル開発や、データ解析手法の拡充も達成しつつあり、期待以上の進展が見えつつある。
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今後の研究の推進方策 |
2022年5月に京都大学の実験圃場に人工水田を設置する。2021年度に人工水田から単離されたツボカビを、人工水田に接種する「ツボカビ接種区」「ツボカビ非接種区」を準備し、その前後の期間、生物群集動態を2週間に渡り環境DNAメタバーコーディングによりモニタリングする。 この系は、過去に同様の系で取得された環境DNAメタバーコーディングデータから、群集動態を予測することが可能である。そこで、ツボカビ接種が起こしうる変化を予め予測しておき、「ツボカビ接種区」ではそのような変化が起こり、一方「ツボカビ非接種区」ではそのような変化が起こらないことが証明されれば操作実験が成功と判断できる。 モニタリングと操作実験は主に6-7月中に行い、8-10月の間に環境DNAメタバーコーディングのために取得したサンプルのシーケンスを行う。その後9-12月に配列データの解析・時系列データ解析を行う。1-3月に、必要であればデータの再解析を進めつつ、論文執筆の準備を進める予定である。
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備考 |
特定の分類群の生物のDNAが既存のプライマーで増幅可能かどうかを判定するためのデータ解析パイプラインを構築・公開した。Ushio (2021) "rDoAMP:An R package to extract amplicons from target sequences using a user-specified primer set." DOI:10.5281/zenodo.5915125
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